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【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」

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ゲームは、時として「楽しさ」以外のものをプレイヤーに与えることがあります。中にはプレイし続けるのが精神的にキツい、でもなぜか止められない…といった強烈なパワーを持つものもありますが、東京ゲームショウ2018のインディーゲームコーナーに出展されていたこの「My Child: Lebensborn」はまさにそれでした。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」

「My Child: Lebensborn」は、ノルウェー・ハーマルに拠点を置くインディーゲームスタジオのSAREPTA STUDIOが今年5月にリリースしたスマートフォン向けの子育てシミュレーションゲームです。なぜそれがプレイし続けるのが精神的にキツいゲームなのか?それは本作がノルウェー近代史上最悪の「闇」と言われている「レーベンスボルン(生命の泉)問題」に真正面から切り込んだシリアスゲームだからです。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」

「レーベンスボルン(生命の泉)」とは、第二次世界大戦中にナチスドイツが本国内および占領下の国々で行った人口政策です。ヒトラーはノルウェー人などの北方人種を「より純粋なアーリア人」と見なし、ドイツ系の人口増加およびドイツ人のアーリア化推進ため、ドイツ人ナチス党員男性とノルウェー人女性との性交渉を積極奨励しました。その結果ドイツ人の父親とノルウェー人の母親を両親に持つダブルの子供が約1万2000人生まれましたが、第二次世界大戦終結後、ノルウェー政府はナチス党員男性の子供を産んだ女性を「対敵協力者」として逮捕することを決定し、そのうち約5000人を強制収容所に送り、ナチス党員男性と正式に結婚した女性のノルウェー国籍を剥奪しました。そして出生した子供たちには「知能鑑定」を行い、政略的な診断から「知的障害者の可能性が高い」とし、彼らを障害者施設や精神病院に入院(事実上の監禁)させました。運良く里親に引き取られてそこを脱出できた子供たちも、その後の人生に於いて進学や就職、結婚などで様々な差別と迫害を受け続け、彼らの名誉が回復されたのはなんと21世紀に入ってから。1999年12月、レーベンスボルンの子供たち122人が、それまでのノルウェー政府の政策を欧州人権規約に反するとして国家賠償を求める裁判を起こしました。この裁判自体は時効により損害賠償が却下されたものの、2000年、当時のヒェル・マグネ・ボンデヴィーク首相が遂に公式に謝罪。2002年に国会で公式謝罪と補償を政府に促す決議が採択され、2004年に一人当たり最大20万ノルウェー・クローネ(約280万円)の補償を行うことが決定しました。
なお、「 ダンシング・クイーン」などのヒット曲で知られるスウェーデンのポップグループ「ABBA」のシンガーの一人であるアンニ=フリッド・リングスタッドさんも実はレーベンスボルンの子供たちの一人。彼女はナチスドイツ崩壊直後に生まれましたが、お母さんが逮捕される前に隣国のスウェーデンに逃れたため施設や病院への収容を免れ、以降スウェーデン人として育ちました。その後彼女はシンガーとしての才能を開花させABBAのメンバーとして活躍することになるのですが、もしノルウェー政府がレーベンスボルンの子供たちを迫害していなかったら、彼らの中からリングスタッドさんのように世界的に活躍する人がもっと出てきたかもしれません。そう考えると、約1万2000人の人生を台無しにしておいて最大でもたった280万円の補償金はあまりにも安過ぎると言わざるを得ません。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
「My Child: Lebensborn」は、プレイヤーが第二次世界大戦終結から3年後にレーベンスボルンの子供たちの一人を施設から引き取った里親となり、毎日働きながら子育てするシミュレーションゲームです。ストーリーを進めていくことで、プレイヤーはレーベンスボルンの子供たちがどのような目に遭ったのか、その中で彼らがどのように生きてきたのかを親の視点で体験し学ぶことができます。ストーリーを作るにあたり、SAREPTA STUDIOは実際にレーベンスボルンの子供たちから体験談を聞き取り調査してそれを反映したとのこと。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
冒頭、プレイヤーは男の子のクラウス君か女の子のカリンちゃんのどちらかを選択して養子にします。まずどちらもドイツ語圏の名前なところから既に重い…

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
とはいえ最初のプレイはそんなに重い雰囲気ではありません。ゲームには「食事」「衛生」「幸福」の3つのゲージがあり、これらをバランスよく満たすと子供を良い状態で育てることができるというシステムで、空腹になったらご飯を食べさせてあげて、外で遊んだ後はお風呂に入れてあげて、空いた時間には一緒に遊んで、寝る前に絵本を読んであげて、誕生日やクリスマスを祝って…と慎ましくも幸せな日常が過ぎていきます。

ところが、子供が小学校に入学した途端にその生活は一変します。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
登校初日は元気いっぱいでしたが…

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
帰ってきたらこれ。どうやら子供は小学校でクラスメイトみんなに無視されるいじめを受けたようです。当然「幸福」のゲージが空っぽになっているので、とりあえず一緒にお絵描きをして幸福度を上げようとしたら…

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
描いた絵がこれ。ゲームでは、いじめや迫害の現場そのものは描かれませんが、子供の様子やセリフ、子供が描いた絵でそれが間接的に表現されます。本作は迫害されている子供の「親」になるゲームだからある意味この描写も非常にリアルです。親は子供のいじめの現場を直接目撃することはなく、いじめの事実を子供が発するSOSでしか知ることができないのですから。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
そうして子供と対話を重ねるごとに、いじめているのはクラスメイトだけではなく、担任の先生もいじめに加担していることが明らかになります。ここで子供を慰めたり元気付けたりする言葉を言ってあげればいいのですが、不安を訴える子供に対し、「他の子より一生懸命勉強すれば」とか「目の前の問題から学べ」とか「きっと良くなるよ」なんて言葉をかけたところで一体何の救いになるでしょうか?これはちょっとネタバレになってしまいますが、どの台詞を選択したところで救いは全くなく、いじめはどんどんエスカレートして暴力的になり、教師も見て見ぬふりどころかいじめに加わり、助けてくれる人は誰もおらず、生活はよりストレスフルになっていきます。もう控えめに言って生き地獄。本作は事実を再現したゲーム、迫害は国家ぐるみで彼らの名誉は21世紀にならないと回復しないことは分かりきっているのです。

【TGS2018レポート】学校という名の生き地獄…ノルウェー近代史上最悪の闇に切り込んだ子育てシミュレーションゲーム「My Child: Lebensborn」
小学校に行く前は幸せな毎日を送れていたのに…。
今回の試遊では冒頭の15分程度しかプレイできませんでしたが、ストーリーを全てクリアするにはだいたい4時間くらいかかるとのこと。その4時間は、他のゲームでは類を見ない最も「重い」プレイになること間違いなしです。

本作をプレイしてまず気づくのは「いじめの普遍性」です。本作で描かれる「無視から始まり徐々にエスカレートして暴力的になっていく」「教師はいじめをなかったことにし、実は教師自身もいじめに加担している」といういじめの描写は、今まさに日本で起こっているいじめ問題と瓜二つです。時代も国も背景も異なるのになぜこうも「いじめ」は普遍・不変なのか?本作は「レーベンスボルン問題」だけでなく、人間はいつでもどこでも集団で誰かを蔑み、虐げるという「業」そのものに切り込んだゲームでもあるかもしれません。
私は本作を学校の道徳の授業にも使用できるレベルのシリアスゲームだと思いました。たとえナチスドイツの政策やノルウェーの近代史を知らなくても、本作をプレイすればいじめの極悪非道さを嫌というほど味わえるからです。しかもそれをいじめられている子供本人ではなく、いじめを直接見たり手出しできないもどかしさを抱えた親の視点で体験できるという点も秀逸です。大人にとっても「もし自分の子供がいじめに遭ったらどう対処するべきか」を考える良いシミュレーションとなるでしょう。
本作はリリース当初の対応言語は英語のみでしたが、9月より日本語も追加され、現在はすべてのテキストを日本語で読めるようになっています。子供にも大人にも「刺さる」ゲームなのでぜひプレイしてみて下さい。

iOS版はこちら(360円)

Android版はこちら(330円)

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