【OGC2011レポート】最近北欧のゲーム業界が凄い件

 


最近、今までの欧米発のゲームには見られなかった個性的なゲームは元を辿ると「北欧」に行き着くことが多くなっています。しかし今まで”洋ゲー”とカテゴライズされていたゲームのほとんどはアメリカやイギリス、フランスといった国のゲーム会社が作ったもので、北欧発のゲームと言われてもイマイチ想像がつきません。今北欧のゲーム業界に何が起こっているのでしょうか?ゲームジャーナリストの新清士氏は講演において、最近の北欧ゲーム業界の勢いを分析し日本のゲーム業界が今後とるべき方策を提示しました。


まず新氏は「最近はまっているゲーム」と「Minecraft」を紹介。これはブロック状のパーツを使って自由に3D仮想空間が作れるサンドボックス型のゲーム。開発者のMarkus Persson氏が開発したインディーズゲームで、2009年5月に「クラシック版」(現在は無料)が公開され、2010年12月に有料版が公開されました。既に世界中に100万本以上を販売するほど大人気で、新氏も「日曜日は20時間くらいやっている」とのこと。


続いてゲームアプリ「Angry Birds」を紹介。こちらは当サイトでも何度も取り上げているので説明は不要かと思いますが、既にAppleのApp Storeだけで2億ダウンロードを突破し、1タイトルあたりの単価が安く収益化が難しいとされるスマートフォンアプリでも「儲かる」ことを証明したタイトルです。


こちらは陰鬱な雰囲気ながらもアート性の強いグラフィックが特徴の「Limbo」というゲーム。現在スクウェア・エニックス傘下となっているゲーム会社IO Interactiveに勤めていた開発者のArnt Jensen氏が友達と独立して製作したゲームで、ゲームが完成する前に映画風のトレイラー動画をYoutubeにアップしたところ話題となり、リリースするや多くのゲーム系メディアが絶賛。2010年内だけでも52万ダウンロードを突破するヒットタイトルとなりました。

加えて新氏は現在多くの愛用者を生んでいる3Dゲーム開発ツール「Unity」と、世界中のゲーム開発者が一斉に48時間以内でゲームを開発する毎年恒例のイベント「Global Game Jam」を紹介しました。これらは一見ジャンルもプラットフォームもデザインも何もかもバラバラなように見えますが、ある共通点があります。それは全てが「北欧発」「個人か小さなチームが基本」「低価格か無料」ということです。

「Minecraft」はスウェーデン在住のMarkus Persson氏がたった一人で開発を始めたゲームで、Angry BirdsはもともとNokia携帯向けのゲームを開発していたフィンランドのRovio Mobile(現在も40人弱の規模)が開発したアプリ、「Limbo」はデンマーク在住のArnt Jensen氏と彼の友達が開発したゲーム、UnityはデンマークのUnity Technologies社が「ゲーム開発の民主化」を掲げて提供している3Dゲーム開発ツールで、「Global Game Jam」はデンマークで行われていたゲーム開発イベント「Nordic Game Jam」をモデルに立ち上げられました。これらは全て今年2月に米サンフランシスコで開催されたゲーム開発者向けのカンファレンスイベント「Game Developers Conference2011」(GDC2011)で大きな話題になったそうです。

新氏によれば、このように北欧から次々と新たなスタイルのゲーム会社やタイトルが出てくる要因には、やはり「北欧社会」が背景にあるとのこと。


この方がMinecraftを開発したMarkus Persson氏なのですが、見たところ随分とベテラン開発者のようです。日本でインディーズ系のゲームを開発するというと、学生やいわゆる「同人ゲーム」といったジャンルでコミケに出展するイメージがあり、ベテラン開発者が行う姿はあまり思い浮かびません。
しかし新氏曰く、「デンマークは消費税が25%の超福祉国家。失業保険がずっと出るので働かなくても生きていける。この環境下でベテラン開発者が独立しないわけがない。」とのこと。また北欧は税金・物価が高いためDIY精神が旺盛。自分で作れるものは何でも作ってしまおうという土壌ができており、さらにエンドユーザーもデザインの過程に能動的に参加し、製品が彼らのニーズに合っているかを確認する民主的なデザイン文化「participate design」があります。


ちなみにこれを体現しているのがスウェーデンの家具ブランド「IKEA」やデンマークのブロック玩具「LEGO」だそうです。尚、この文化がアメリカへ渡りコンピューターサイエンスの土台となり、やがて「ハッカー文化」と呼ばれるようになったとのこと。現在「みんなで何かを作る」というスタイルはプログラミングの主流となっています。このスタイルの最大の成功例となったオープンソースOS「Linux」も、フィンランドのヘルシンキ大学に在学中だったLinus Torvalds氏が個人で開発を開始したものでした。

一方、これまでの欧米、特に90年代後期から2005年までのアメリカのゲーム業界は「資本力」がものを言う世界でした。新氏は例としてElectronic Arts(以下EA)を挙げてこれを説明。

EAは資本力を背景に小売店の売り場を押さえ、そこへ絶え間なくゲームソフトを置くことで売り上げを最大化しました。またFIFA、タイガー・ウッズなどスポーツ団体や選手らから高額ライセンスを取得しよりリッチ化、ブランド化されたタイトルを立て続けにリリース。さらにハリー・ポッターやロード・オブ・ザ・リングといった映画のライセンスも取得してゲーム化したり、小・中規模のゲーム会社を複数買収したりしました。これによりメガパブリッシャーに買収されることが開発者の一つのゴールと見なされていた時期もありましたが、一方でゲーム市場には小資本のゲーム会社の出る余地が無くなり、EAは「悪の帝国」と陰口を言われるようになってしまいました。


そしてその後EAの売り上げは激減。2009年に大リストラを決行し、その一方でFacebookで人気のソーシャルゲームディベロッパーのPlayFishを計3億ドルで買収しました。しかし買収の効果はまだ見えてこず、PlayFishの売り上げは100%伸びたとはいうものの、そのセグメントは横ばい気味のようです。
新氏はこの状況を踏まえ、「一部の大手ゲーム会社がゲーム業界を独占するのではなく、今後は小規模なチームで”アマチュア”でゲームを作っている人達の中からAngry Birdsのようなヒット作が出るようになる」と解説しました。

では日本のゲーム業界はどうかというと、新氏は「大型ゲームが日本で生き残る余地は無い」と断言。

というのも、リーマンショック以降アメリカでさえ家計所得が2~2.5倍増加しているのに日本ではマイナス12%、子供のいる家庭は所得の減少・ローン・教育費の三重苦で、独身の若者は所得低下が激しく消費も貯蓄もできない、老人は年金満額受給が75歳に引き上げられ貯蓄は底をつく…。とにかく国民の所得・貯蓄の低下が著しく、さらに携帯電話の普及により月額料金の支払いも発生するため、消費者にゲームを購入する余力はなさそうです。新氏は「日本のゲーム産業は政府の援助を一切受けずにここまで発展した。それを支えたのは高度成長期の可処分所得の多かった時期に生まれた世代。しかし今はゲームを買う余力すら無い。そして今後日本はさらに沈滞するだろう。本来日本は衰退期の戦略を取らなければならないが、日本人はまだその選択をしていない。ゲーム市場は10年後も回復する可能性は低く、大型ゲームが日本で生き残る余地は無い。」と解説。さらに続けて「現在は新しい時代のステージ1が終了したところ。リーマンショックの影響が具体的にゲーム業界にも現れてきた。今北欧がアメリカ市場に攻め入っているが日本の存在感は薄い。日本は投資対象として魅力的に映ってない。」と語りました。

そこで日本のゲーム開発者が今後取るべき方法として、新氏は上記の北欧ゲーム業界に習い「開発チームが小さくても参入できるうちにスマートフォンスペックへ注力し、短期間でコストもかからないアジャイル型の開発に慣れるべき」と提言しました。

尚、48時間耐久ゲーム開発イベント「Global Game Jam」は日本各地でも開催しており、今年も開催予定とのこと。開発者の皆さん、まずはこのイベントに参加して小規模&短期間なゲーム開発に挑戦してみませんか?

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