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【レポート】地方からグローバルへ進出---そのノウハウをフィンランド・オウル市と米シリコンバレーから学ぶ「Sendai Global Night」

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【レポート】地方からグローバルへ進出---そのノウハウをフィンランド・オウル市と米シリコンバレーから学ぶ「Sendai Global Night」

9月25日(月)、宮城県仙台市のアシ☆スタ交流サロン (仙台駅前AER内)にて、宮城県仙台市グローバルラボ仙台が主催するカンファレンスイベント「Sendai Global Night ゲーム/ITで戦うスキルとは」が開催されました。

このイベントは、近年”北欧のシリコンバレー”とも呼ばれているフィンランドのオウル市をはじめとするグローバル仙台が連携するネットワークの中からゲストを迎え、ゲーム/IT系のスタートアップの仕組みや世界で戦うスキルについてトークセッションを行うというもの。東京ゲームショウ2017のレポート記事でも少しお伝えしましたが、仙台市はIT系企業の誘致やフィンランドの自治体およびゲーム/IT系企業・団体との連携を行っており、日本国内で最も熱心にIT分野に注力している自治体の一つです。

■オウルってどんな都市?

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はじめに、オウル市にてインターナショナルコーディネーターの日本担当として活躍するビジネスオウルの内田貴子さんより同市の概要が説明されました。
オウル市はフィンランド中部に位置し人口約25万人と同国で5番目の規模を持つ中核都市で、オウル大学とオウル工科大学の2つの大学があるため市民の平均年齢が37.6歳と”若い街”なのが特徴です。かつて世界最大だった携帯電話メーカーのNokiaの研究機関があった街なので、早くからIT産業やICT教育に取り組み、世界で最も早く無線基地局が設置されたり、世界最北のゲーム会社があったり、今でも世界に先駆け5G研究を行っていたりとITに於いて世界規模の話題に事欠かない街です。ちなみに”世界”と言えば、最近は日本人の出場でも話題の「エア・ギター世界大会」の開催地でもあります。

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しかしオウル市はNokiaの研究機関によってハイテクの街となった一方、”Nokia依存の街”でもありました。そのためNokiaがスマートフォンの波に乗り遅れ停滞し、2011年2月にマイクロソフトと業務提携した後に行われたレイオフにより大量の失業者が発生。そこで市では失業者に新たな就職先を見つけるのではなく、失業者に会社を立ち上げてもらうよう起業支援プログラムを実施し、その結果3年間で500社以上のスタートアップが立ち上がり、これまでに18,500人のハイテク産業系の雇用が創出されました。

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こうした素早い動きの背景には産官学連携があり、つい最近もオウル大学のキャンパスだった建物を同市拠点のモバイルゲームディベロッパー兼パブリッシャーFingersoftと地元の建設会社が取得し、ゲーム開発専門の大型拠点「Game Campus」を設立しました。ここには既にFingersoft以外のゲーム会社やオウル工科大学のゲーム開発者教育プログラム「Oulu Game Lab」が入居し様々なコラボレーションを行っています。

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内田さんはこの「Oulu Game Lab」についても説明。これは学生を対象としたゲーム開発プログラムで、まず40人の参加メンバーを2人ペアにしてどんなゲームを作りたいか企画させます。その内容を審査して10チームに絞り込み、さらに5チームに絞り込んだところでデモ版の開発に着手、最終的に3チームになったところでプロダクト開発に移りビジネス的な各種支援を行います。このプログラムの面白い点は、審査の過程で脱落した学生を弾くのではなく、どんどん残ったチームに入れてゲームの企画・開発に参加させること。企画が通らなかったからといってその人を否定するのではなく、新たなチームで能力を発揮してもらおうというわけです。中には企画が通らなくても後から加わったチームの中で重要な役割を果たす人もおり、とにかく希望する全ての人に機会を与え、生き残れる人材を育成する仕組みになっています。学生の支援にも産官学連携が生きており、民間の投資家やベンチャーキャピタルだけでなくフィンランド技術庁(Tekes)も出資し起業をサポートしています。

■Oulu Game Labから生まれたkaamos games

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次に、まさにこのOulu Game Labがきっかけで設立されたモバイルゲームディベロッパーKaamos GamesのCEOであるVille HelttunenさんとCCOのJuho Mattilaさんによる講演が行われました。

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同社はこの2人によって2015年9月に設立されたスタートアップで、現在のスタッフ数は5名と小規模ですが、既に2タイトルを提供し、他4タイトルも開発中です。ちなみにMattilaさんは東日本大震災直後の2011年~2012年の1年間、交換留学生として東北大学に通った経歴の持ち主。そのため日本語も流暢で、同社の開発タイトルの中には「妖怪ウォッチ」シリーズのスマートフォン向けパズルゲーム「妖怪ウォッチぷにぷに」(iOS/Android)から影響を受けたパズルゲーム「Gummy Poppers」もあります(日本未配信)。

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2人はオウル大学出身で2014年秋にOulu Game Labに参加。しかし企画段階で脱落して別のチームに参加し、アクションパズルゲーム「State of Matter」の開発プロジェクトに携わりますが、なんとこれが最終選考まで残りプロダクト化決定。実際にリリースされ、Google Playの評価で星4.5を獲得するなど高く評価されました。まさに2人はチーム内で能力を発揮し生き残った人材と言えます。それからモバイルゲームの大型カンファレンスイベント「Casual Connect」のインディーゲームのアワード「Indie Prize」にも選出され、業界からの評価も得ましたが、残念ながらダウンロード数に対し課金収入が少なく、マネタイズでつまずいてしまいました。このことから、同社は欧州以外の海外マーケットに自分たちのタイトルを知ってもらい、さらにグローバル展開を手助けしてくれるパブリッシャーや投資家が集まるイベントに参加する必要があることを痛感したそうです。またRovioやSupercellのように独自タイトルによるIPの確立も目指しているほか、日本進出も視野に入れており、現在パブリッシャーを募集しているとのこと。残念ながら同社のタイトルはいずれも日本向けに配信されていませんが、パブリッシングやローカライズに興味のある方はサイトからスクリーンショットや動画をチェックしてみて下さい。

■日本人をもっとシリコンバレーへ!

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続いて、オウル市だけでなく米シリコンバレーからも学ぶため、シリコンバレー・ジャパン・ユニバーシティ発起人の桝本博之さんの講演が行われましたが、ご覧のとおり桝本さんはビデオチャットでの登壇(?)。日本とアメリカ西海岸の時差は16時間あり、現地では午前3時過ぎと早朝の講演となりました。
桝本さんは1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに日本企業からシリコンバレーの企業に転職・移住したという経歴の持ち主。桝本さん曰く、シリコンバレーは世界のハイテクの中心地であるものの、電車もなければ店もビルもなく、3階建てのビルですら建物全体の1割くらいという”クソ田舎”。ところがそんなクソ田舎に世界中の意欲ある人々が集い、日々切磋琢磨し世界的な技術やサービス、企業が生まれています。なかでも最近特に躍進が目立つのが中国人とインド人で、大手IT企業の代表や重役として大成したり、起業した会社が急成長したりと目覚ましい活躍をしていますが、そこに日本人の姿は見当たらないとのこと。これについて桝本さんは「シリコンバレーの日本人は他の人種の人々とは最初からマインドセットが違う。日本企業の駐在員として来ている人が多く挑戦していないし、そもそもシリコンバレーに来ている日本人自体が少ない。」と指摘。なぜ少ないかについても「ビザが取れないとか、会社を辞められないとか、英語ができないとか、シリコンバレーに来ない人はいろいろと理由を言う。でも一番の理由はその人が日本という国に満足してしまっているから」と分析しました。
そこで桝本さんは、シリコンバレーで成功する日本人を出すには、まずシリコンバレーに来る日本人の数を増やさなければならないと、2015年9月にシリコンバレー・ジャパン・ユニバーシティを設立し、一週間だけシリコンバレーに留学する「ショートタームプログラム」を10回以上開催してきました。参加者の7割くらいは若い学生ですが社会人もおり、今までの最高齢はなんと60代。皆たった一週間で別人のように変化し、この短期留学をきっかけに起業を志した人や、またシリコンバレーに”戻って”くるようになった人、本格的に海外留学した人もいるそうです。
最後に桝本さんは、グローバルで戦える人材に必要なスキルとして「まずは行ってみる、やってみる、失敗を恐れない」ことを挙げました。

■地方からグローバル市場に進出するには?

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プログラムの最後には、仙台に本社を置きながら海外案件を多く手がけている株式会社ASAの上席執行役員である田坂克郎さん、ビジネスオウルの内田貴子さん、Fingersoftチームによるパネルディスカッションが行われました。

ディスカッションのテーマは「世界と戦う人材となるには」。仙台市もオウル市も地方都市であることは同じですが、地方からどのようにグローバル市場と繋がり、戦えばよいのでしょうか?これについてASAの田坂さんは「東北の会社は東京の会社から仕事をもらっていることがほとんど。ところが東京の景気=日本の景気なので、日本の景気が悪くなるとそのまま打撃を受けてしまう。そこでASAではサンフランシスコやシリコンバレーなど海外から直接仕事をもらうようにしている。そうすれば日本の景気が悪くなっても地方は生き残れるし、それを全ての地方がやれば日本全体が元気になる。」と自社を例に挙げつ提案しました。
続けて、FingersoftのパブリッシングディレクターのDaniel Rantaraさんが自社の概要を紹介。Fingersoftは5年前に設立されたスタートアップながら、提供タイトルの総ダウンロード数が9億件を突破するフィンランドを代表するモバイルゲーム企業へと成長。特にレーシングゲーム「Hill Climb Racing」シリーズが好調で、これだけでも全世界累計5億ダウンロードを突破しています。Rantaraさんは「今フィンランドで一番稼いでいるモバイルゲーム企業はSupercell、次がRovio、その次が我々Fingersoft。最初は開発のみだったが現在はパブリッシングも手がけており、日本でも新しいビジネスを展開したいと考えていて、既に今も日本の複数の会社とミーティングしており、ゲームの獲得もしたいと思っている。」と展望を語りました。

フィンランドのスタートアップは日本とは違い、設立後すぐにグローバル市場を目指す傾向にあります。その礎にはフィンランド人の語学力の高さがありますが、ここでアメリカとフィンランドの教育制度の違いについも話題が及びました。フィンランドは小学校から大学までが無料で、大学は中退してもいいし、何歳からでも大学に戻り興味のある分野を学び、その間留学することもできます。実際Fingersoftのエグゼクティブ2名も一回大学を中退して再度大学に戻っているそうで、Rantaraさんは2年前に北海道科学大学に留学し日本語も流暢です。
一方、アメリカの教育費は何から何まで有料で、子供が生まれてから大学卒業までに約3億円もかかるなど、経済格差が教育格差となっているとのこと。しかし子供の欠点や失敗を責めるのではなく、とにかく良いところを“褒める”教育が根付いており、田坂さん曰く「子供のいる人の家に遊びに行くとやたらとトロフィーが並んでいる。学校がちょっとしたことでもすぐに子供を表彰してトロフィーをくれるから。」と体験を語りました。こうした教育方針から、特にアメリカでは失敗を恐れない文化が生まれています。

ここで話題は「失敗」に移りました。RantaraさんはFingersoftに加わる前にマイクロソフトの投資プログラムに応募して資金を獲得し、それをもとに23歳で自身のモバイルゲームディベロッパーのNamida Gamesを設立。それからオリジナルのゲーム開発に資金・時間共に投資をしましたが、残念ながらヒットには恵まれなかったそうです。これについてRantaraさんは「ゲーム開発・運営においては自分の気持ちだけで動いてはならず、ちゃんとデータを見なければならない。私はアドバイザーの話を聞かずにゲームを配信し続けて結局失敗してしまった。」と体験を披露し、データ分析の重要性を語りました。なお、Fingersoftの「Hill Climb Racing」はわずか3か月で開発したタイトルだそうですが、リリースした次の日のデータを見たらいきなり1000万ダウンロードを突破しており、誰もここまでヒットするとは予想しておらず大変驚いたとのこと。
「失敗」と言えば、先のシリコンバレー・ジャパン・ユニバーシティの桝本さんの講演にもありましたが、現時点でシリコンバレーに進出して大きな成功を収めた日本人や日本のIT系企業はまだいません。それについて田坂さんは「シリコンバレーには様々は文化や背景を持った人々が集まっているのに、日本人は単一民族国家からあまり出ないので自分たちの目線からしか話せず、しかもそれを他者に押し付けようとし、自分の頭で考えず煽動に弱い。もっと別の角度からものを見て語る姿勢を身につけるべき。日本人がシリコンバレーで成功しないのも”Give"がないから。みんなシリコンバレーから学ぼうとばかりしていて、シリコンバレーのために何かしようとしない。加えて日本人はマイノリティだから差別される立場だが、日本人同士で協力しようとせず、むしろ日本人同士で足の引っ張り合いをする。これでは成功できるわけがない。」と厳しい意見を語りました。

このイベントのタイトルは「ゲーム/ITで戦うスキル」でしたが、ゲストの講演からはゲーム/ITの分野を超えてグローバル市場で生き抜く術が示されました。地方云々に前に、まず日本人は失敗を恐れずにチャレンジしたり日本の外に出てみて、失敗してもそこから学び、広い視野を持つことが重要なのかもしれません。

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