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【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」

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【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」

先日、東京・池袋のHUMAXシネマズで映画「アングリーバード」を観ましたが、予想以上に観客があまり入っておらずスカスカでびっくりしました。オリジナルのゲームも含め、どういうわけかアングリーバードは日本で人気がありません。この映画だって、海外では初公開最初の週末に37か国でNo.1を記録し興行収入4300万ドルを達成、全米公開時も最初の週末3日間で興行収入3900万ドルを達成と華々しい成績を残しているのに日本ではいまいち盛り上がりに欠け、事前にレビューもチェックしましたが「キャラに感情移入できない」「ガチャガチャうるさい」「ストーリーが唐突」などと評価もあまり芳しくありません。確かに日本では大ヒット作「シン・ゴジラ」と「君の名は」がまだ公開されているというタイミングの悪さもありますが、それにしたってもうちょっと盛り上がってもいいと思うのです。そこで公開から日にちが経ってしまいましたが敢えてここで本作をオススメするレビュー記事を書いてみます。

【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」

映画「アングリーバード」のあらすじは「飛べない鳥達の卵を豚が盗んだので頑張って取り返す」というゲームの設定そのままの話です。本当にそれだけでぶっちゃけエンディングもだいたい想像が付きます。こんな単純な設定をよくぞ1本の映画に膨らませたもんだと感心してしまいますが、これがなかなか意味深なモチーフが詰め込まれており、深読みすればするほど子供ではなく大人こそ考えさせられる内容となっていました。

■なぜレッド”だけ”が怒っているのか
【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」
原作のゲームは「Angry Birds」のタイトルどおり全ての鳥が基本的に激おこ状態で、グラフィックをよく見るとレッドの眉毛も並外れて太いわけではありません。ところが映画版のキャラ設定では怒りまくっているのはレッドのみで眉毛も味海苔レベルの極太です。どういうわけかレッドは常に不機嫌で、すぐにキレ、ひねくれ者で皮肉屋で気難しく、バードアイランドの住民みんなから嫌われています。しかし、そんなレッドが住むバードアイランドは美しい自然に善良で陽気な住民たち、事件や厄介事も見当たらず、まさに鳥の天国。住民は「なぜここの鳥は飛べないのか?それは外に行く必要がないくらいここが良いところだから」なんて呑気なことを言って住環境に心から満足しています。そんなところでなぜレッドだけが不機嫌なのかまるで意味不明です。それが、冒頭シーンの後に始まるオープニングムービーで明らかになっていきます。

【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」

実はレッドは子供の頃から他の鳥とは違う極太眉毛をからかわれていた「いじめられっ子」でした。彼はそのトラウマから大人になっても他者と上手く付き合うことができなくなり、それがさらに周囲の偏見を呼び、自らどんどん負のスパイラルに陥っていきます。ところが、いじめる側は自分がいじめをしたという自覚すらなく、とことん悪意なく、無邪気にレッドに心無いことを言ったりやったりします。しかしレッドはその環境から逃れることができず、居心地の悪さと孤独を抱えながら生きていくしかありません。飛べないしバードアイランドは島だから。ということでレッドは人里離れた浜辺に家を建ててひとりぼっちで暮らし、極力他者と関わらない自発的マイルド村八分生活を送るようになります。これは明らかに「いじめが人生に与える害悪」の典型的な例です。いじめっ子達は悪いことをしたのに何の障害もなく人生を謳歌できるのに、いじめられっ子は心に傷を負い大人になった後も人生の様々な局面で困難に直面する…その理不尽さを、本作では敢えてかわいい鳥の姿を借りて”さりげなく”見せるのです。その一方、オープニングテーマとして流れるのはヘヴィメタルの元祖とも言われるイギリスの伝説的ハードロックバンドBlack Sabbathの名曲「Paranoid」。子供向けのアニメ映画のオープニングテーマがBlack Sabbathというのも考えてみたら凄い話ですが、この「Paranoid」の歌詞がレッドの境遇にピタリとはまっており、本作を観た後だともはやレッドのキャラソンにしか聴こえなくなってきます。

特に1番の歌詞のここら辺は…

"People think I'm insane
 Because I am frowning all the time
 All day long I think of things
 But nothing seems to satisfy
 Think I'll lose my mind
 If I don't find something to pacify"

”みんな俺が正気じゃないと思ってる
 俺がいつも眉をしかめているから
 俺は一日中考え事をしているけど
 何も満たされないようだ
 何か落ち着けるものを見つけないと
俺は正気を失ってしまう”

もうレッドにドンピシャ過ぎ!これ、子供には歌詞の内容はおろかBlack Sabbathが何なのかすら分からないでしょうが、子供を連れてきた保護者世代にはどストライクです。こうした細かいネタ仕込みや設定、人間社会の問題をかわいらしい動物の姿を借りて見せる手法は、最近の「子供だけでなく大人をも対象とする」ハリウッドのアニメ映画のトレンドなのでしょう。

■バードアイランドは本当に天国なのか
【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」
冒頭シーンで、レッドは殺”鳥”には至らなかったもののある一家の卵を壊してしまい、裁判所でバードアイランドの極刑である「アンガーマネージメント教室での性格矯正」を命じられます。そこにいたのは異常なスピードで動くお調子者の黄色い鳥「チャック」と、ビビリでちょっとしたストレスですぐに爆発してしまう黒い鳥「ボム」、謎の威圧感を放つ巨大な鳥「テレンス」でした。彼らはそれぞれ気の良い奴らですが、その特技・特徴はバードアイランドの平和を乱すものばかりで、それをトンチンカンでウザいセミナーとワークショップで矯正することを裁判所から強制されています。この辺りから徐々にバードアイランドの真の姿が明らかになっていきます。確かにバードアイランドは一見住み心地の良い鳥の天国のように見えますが、少しでもコミュニティの和を乱す者や嫌われ者は排除され、”問題”を矯正しコミュニティに同化することを求められます。逃げ出したくても島だし飛ぶことができないから一生そこで生きていくしかない…ってこれどこの農村集落だよ!どこの南馬宿村だよ!そう、バードアイランドは究極のムラ社会なのです。

■緑の豚が意味するもの
【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」
そんなムラ社会・バードアイランドに突然「友好のため」と大型船で緑の豚軍団がやってきました。豚の存在どころかそれまで島の外に世界があることすら知らなかった鳥達は、物珍しさから彼らを疑うこともせず大歓迎しますが、もちろん豚の目的は友好ではなく鳥達の卵を奪うこと。豚軍団は鳥達にトランポリンやスリングショットなど鳥達が見たこともない珍しいプレゼントを贈り、派手なパーティを開き、目眩ましをしつつ卵を奪うための準備を着々と進めていきます。そんな中、レッドだけはひねくれ者だからこそ持つ客観的視点でいち早く豚の怪しさに気付きますが、そこはやはり嫌われ者、「あいつら怪しい!」といくら主張してもまともに聞いてくれる鳥はいません。かくして豚軍団は夜陰に乗じてバードアイランドを襲撃!大事な卵を根こそぎ奪って自分達の国に帰ってしまいました。この豚軍団の略奪は、動物の姿と卵によってだいぶマイルドに描かれていますが手口自体は「白人による侵略と植民地支配」そのものでかなりブラックです。強大な技術力と軍事力を持った者が文明・文化的に劣っている(と一方的に見なしている)コミュニティに突然押しかけ、珍しいものを見せて原住民の心を開かせ、その裏で侵略計画を立て、最後には略奪の限りを尽くしてそのコミュニティを破壊してしまう…。本作では「卵を奪う」という表現ですが、これは虐殺のメタファーとも考えられます。

■レッドの共同体感覚
【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」
ここで不思議なのは、レッドがバードアイランドの危機に対し積極的になんとかしようと立ち上がることです。今まで散々自分を虐げ、自分だって自発的に距離を置いていたコミュニティのために。もし私がレッドだったら「これで少子高齢化待ったなしだざまあみろ!こんなクソ田舎さっさと衰退するなり滅びるなり勝手にしやがれバーカ!」と言うだろうし、その前に頭に懐中電灯を結わえ付けて首から自転車用ランプを提げ津山事件の完全再現にチャレンジしているところです。なのにレッドは「絶対に(卵を)取り戻す!」と卵奪還を誰よりも強く主張し、リーダーとなって他の鳥達を導き、しまいには島内で唯一飛べる鳥として崇拝されていながら、実際は過去の栄光にすがっているだけの無能な引きこもり老害「マイティ・イーグル」さえも引っ張り出し彼の本気に火を点けます。彼はアドラー心理学で言うところの「共同体感覚」(他者を自分の仲間だと見なしそこに自分の居場所があると感じること)を失っていない状態ですが、普通に考えるとこれは変です。「いじめ問題」は共同体感覚とは正反対にあるものですから。ではレッドの心をバードアイランドという共同体に留めていたものは何か?私はそれこそが「子供(卵)」だったのではないかと思いました。改めて本作の演出を思い出してみると、幼い鳥だけは気難しいレッドを恐れず何やかんやとちょっかいを出していました。もしかしたらレッドは自分を虐げる大人とは距離を置きつつも、まだ偏見が刷り込まれていない次世代には希望を抱いていたのかもしれません。そう考えるとレッドの言動は矛盾しないし、ラストシーンがより一層感動的に見えてきます。

【レビュー】映画「アングリーバード」の真のテーマは「いじめの害悪」

ある意味、本作を一番理解し楽しめるのはレッドと同じような境遇の「田吾作のいじめられっ子」です。先に書いた「キャラに感情移入できない」「ガチャガチャうるさい」「ストーリーが唐突」という感想を抱いた方々は、幸いにも子供の頃にいじめに遭わなかったのでしょう。子供のいる方は是非親子一緒に本作を観に行って下さい。残念ながら劇場公開期間に間に合わなかったらDVDやBlu-rayで鑑賞して下さい。これを観た子供は容姿を理由に誰かをいじめるような人間には絶対になりません。万が一不幸にもいじめに遭ったとしても、少なくとも自己嫌悪に陥ったりふさぎ込んで鬱になったりはしないでしょう。レッドみたいな激おこキャラになるかもしれませんが。

The Art of アングリーバード(ジ・アート・オブ アングリーバード)
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映画 アングリーバード (集英社みらい文庫)
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