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【速報現場レポート】シンガポールで開催の仮想世界カンファレンス「State of Play V: Building the Global Metaverse」2日目を報告

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昨日の記事でお伝えしたように、8月20日よりシンガポールにて仮想世界カンファレンス「State of Play V: Building the Global Metaverse」が開催された。本記事ではカンファレンス後半となる8月21日の様子をお伝えする。

【速報現場レポート】シンガポールで開催の仮想世界カンファレンス「State of Play V: Building the Global Metaverse」2日目を報告
2日目のセッションを始める前に仮想世界サービス「There」のプロモーションビデオと、同じくThereをプラットフォームにしたマニシマのメイキングビデオが上映された。プロモーションビデオはThereのサイトから見ることができる。
マシニマのメイキングビデオは、制作過程にそって「脚本書き」「オーディション」「カメラテスト」「小道具作成」などから「プレミア試写会」までマシニマを制作する様子をマシニマで制作しており、それ自体も作品としておもしろい。

2日目のセッションテーマは以下のとおりとなっている。
【2日目(Conference Day 2)】
・Understanding Virtual World Inhabitants(仮想世界の住人を理解する)
・Space, Place and Culture Inside Virtual Worlds(仮想世界のスペースと場所と文化)
・The Wealth of Virtual Nations(仮想国家の富)
・Building Virtual Worlds(仮想世界の構築)

■Understanding Virtual World Inhabitants(仮想世界の住人を理解する)
【速報現場レポート】シンガポールで開催の仮想世界カンファレンス「State of Play V: Building the Global Metaverse」2日目を報告
スピーカー(向かって左から)
Harry SK Tan, Nanyang Business School (Singapore)
Thomas Malaby, University of Wisconsin Milwaukee (USA)
Ian Lamont, Computerworld/Harvard University (USA)
Aleks Krotoski, University of Surrey (UK)
Henrik Bennetsen, Stanford Humanities Lab (USA)
仮想世界にはすでに多くの人が入ってきており、今後も増えていくことが予想される。こうした状況を調査することには一定の価値がある。同時に人々がどういった姿勢で仮想世界に参加しているのかを知ることができれば組織としてのユーザー対応時や、どういった層に仮想世界の活用が向いているかを検討する際の指標となるだろう。
セッションでは住人の姿勢の一要素として「trust(信頼)」が挙げられていた。アバターを介した仮想世界内でのアクションとリアクションは、多くの面で「trust(信頼)」によって行われているといえる。
「ボイスチャットのマイクを入れっぱなしにしてずっと自分の声を流すことなんて、自分にはできない」とThomas Malaby氏は話すが、これも「trust(信頼)」がベースにあると考えれば不自然なことではないことがわかる。ただし、これは「信頼し」「信頼され」ていることが前提のため、このバランスが崩れると、一転してそれはリスクとなる。
こうした傾向は文化圏や発展段階によっても異なるだろうが、ひとつの重要な示唆にちがいない。

■Space, Place and Culture Inside Virtual Worlds(仮想世界のスペースと場所と文化)
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スピーカー(向かって左から)
Yehuda Kalay, UC Berkeley (USA)
Kevin Collins, Indiana University School of Law (USA)
Yee Fen Lim, CAPTEL, Nanyang Technological University (Singapore)
Erik Champion, University of Queensland (Australia)
Jeff Malpas, University of Tasmania (Australia)
これまでの「場所」という概念は物理的な制約があったため、付近には同様の文化的背景を持つ人々が多くなり、結果としてその場所に関係する人々の間でやりとりをするため、文化的な相違による問題は一部に限られていた。
それが仮想世界では「場所」の概念はあっても、距離の制約はごく小さくなった。加えてアバターによって言語を用いないくても、ある種のコミュニケーションが可能になった。これらはメリットであると同時に、文化的背景の異なる関係者間の調整においては大きな課題となるだろう。
この課題に対して、このセッションでは最初にYehuda Kalay氏によって「仮想世界の場所」が実際にどう表現され活用されているかが示された。さらに、Yee Fen Lim氏によって、特に取引される場合の「場所」の概念が再定義され、議論が行われた。こうした中で、会場からは仮想世界(Virtual World)の場所と概念に対して、現実の世界にも極度に人工的に作られたReal Virtual Worldがあるのではないかというコメントもだされるなど、各自が「仮想世界の場所」の本質的な意味を問い直す機会となっていたようだ。

■The Wealth of Virtual Nations(仮想国家の富)
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スピーカー(向かって左から)
Gregory Boyd Esq.(USA)

Roxanne Christ, Latham and Watkins (USA)
M. Scott Boone, Appalachian School of Law (USA)
Nick Abrahams, Deacons, Media and Telecommunications Group (Australia)
セカンドライフは、ユーザーが作ったものはユーザーが著作権を持つことが一つの特徴とされているが、実はオンラインゲームも含めた仮想世界での財産の取扱いについては世界的に統一された見解がない。しかしながら、仮想的なものであるだけに扱いについては認識レベルでの統一が重要である。
このセッションではA4で15ページにおよぶ資料が配布された。こうした資料が配布されたのはこのセッションのみである。資料は「Issues for Corporates and Regulators in Second Life and Virtual World(セカンドライフなどの仮想世界における企業・調整組織としての問題)」と題されたもので、過去の判例も含んでいるなど充実している。
専門的ではあるが、身近なだけに気にしていたい問題だ。

■Building Virtual Worlds(仮想世界の構築)
【速報現場レポート】シンガポールで開催の仮想世界カンファレンス「State of Play V: Building the Global Metaverse」2日目を報告
スピーカー(向かって左から)
Christopher V. Sherman, Show Initiative, LLC (USA)
Richard Bartle, Essex University (UK)
Vincent Teubler
Jean Miller, Linden Lab (USA)
Mike Wilson, Makena Technologies (USA)
Hui Xu, HiPiHi (China)
この10月にサンノゼで開催される「Virtual Worlds Conference and Expo Fall」の運営を行うShow InitiativeのChristopher V. Sherman氏がモデレーターを務める。カンファレンス最後のセッションだけあり、セカンドライフの運営会社Linden Lab(リンデンラボ)を始め、「There」の運営会社Makena Technologiesや前日にグローバル戦略を発表したばかりのHiPiHi社と楽しみな顔ぶれが集まった。
仮想世界サービスを提供する各社からは各者の背景と合わせ、現状が語られた。リンデンラボのJean Miller氏は各地で進めているローカライズについて述べた。
日本語版についてもさらなる拡充を期待したい。
仮想世界サービスの提供側が目立ったセッションだが、Richard Bartle氏はこうした仮想世界サービスの登場によって「高度な表現をするのにユーザーが細かい技術が知る必要が減った」という。「必要なものはプログラミングの技術ではなくイマジネーションになった。」
また質疑応答の後半では仮想世界サービス間の相互接続に関する質問も出た。これに対し、Mike Wilson氏は「『ゲーム』のための仮想世界についていえば、それ(相互接続)は起こらないだろう」との見解を語った。ゲームは様々な独自の内部ルールがあり、これがゲームの核となるため、他サービスとの共有は難しいとの考えだ。続けて、Richard Bartle氏はこれを引き継ぐように「ただ、『社会(ソーシャルワールド)』としてであればコストの問題はあるが、可能性はある」と語った。HiPiHiは将来的に他サービスとの相互接続を目指すことをすでに発表しており、状況次第とはいえ可能性はありそうだ。
Jean Miller氏がセッションの途中で話題にするほど、会場は冷房の効きすぎで非常に寒い状態だったが、議論は各社の意気込みを反映して熱いものとなった。

【速報現場レポート】シンガポールで開催の仮想世界カンファレンス「State of Play V: Building the Global Metaverse」2日目を報告
質疑応答の時間までかなり間がある段階で既に並び始める人が出るなど、注目度がわかるセッションだった。

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セカンドライフに対する期待の声と合わせ、ネガティブな意見も聞かれるようになって久しい。しかし、2日間のカンファレンスを通して感じたのはセカンドライフというひとつのサービスに限らず、Virtual World(仮想世界)という概念に対して課題を検討しつづけ、磨き続けている現状である。今後普及していくのがどのサービスなのかわからないし、多くのサービスが使い分けられていく可能性も高い。そうしたサービス単位の機能の話ではなく、本質的な議論を続けていく限り、なんらかの形でそれは蓄積されていくはずである。
2日間のカンファレンスはこうして幕を閉じた。

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