「Make Noise」は、イギリスの公共放送BBCががリリースしたOculus GO向けのVRインタラクティブコンテンツです。一見デジタルアート作品のように見えますが、実は明確なメッセージが込められている”啓蒙コンテンツ”でもあります。
本作の一番の特徴は、体験者自身が発する「声」によって空間が変化すること。ガイド(英語)に従って実際に声を出すと、Oculus GOのマイクがそれを拾ってリアルタイムに空間に反映してくれます。
アプリを起動して最初に眼前に広がるのは、ローポリゴンで構成された荒涼とした世界。そこにピンクとグリーンのオブジェクトが浮かんでいます。
声を出すと、それまで丸かったオブジェクトがウニにようにトゲトゲになり、大きな声を出せば出すほどそのトゲが長く伸びていきました。これは面白い!まさにインタラクティブアート!
その景色が消滅した後、今後は夕焼けで赤く染まった空間が広がり、そこにたくさんの干された洗濯物が並びました。これは何を意味しているのでしょうか?声を出すとそれが風となって洗濯物を揺らし、遂には洗濯物が風に煽られてどこかに飛んでいってしまいました。
次に現れたのは洗濯ばさみの入ったバケツ。しかしこれも声に反応してひっくり返ってしまい、バラバラにぶちまけられた洗濯ばさみは、まるで意思を持った人間のように歩き出してどこかへ去ってしまいました。
その次のシーン転換で現れたのは「1984」のようなビッグブラザー的ディストピア。大きな監視者が見下ろす列の間を、リボンか包帯でできた人らしきものが無言で歩いていきます。
すると彼らの頭上にハンマーのようなものが現れ、様々なものを破壊し始めました。その破片をものともせずに歩き続けるリボン/包帯人間たち。彼らは一体何者なのでしょうか?
そしてまたシーンが転換し、次は無数の手錠や警棒、針のついたアイロンが浮かぶ崖に取り囲まれました。見るからにこちらを攻撃してきそうな雰囲気です。
そこに突然単語が現れました。どうやらこの単語を言うことで、これらの「敵」を倒せるようです。
手錠や警棒、針の付いたアイロンが次々とこちらに向かって飛んできますが、その直前に示される単語を発することで、彼らはあっという間にボロボロに砕け散ってしまいました。
最後に現れたのは花が咲き花びらが舞う美しくのどかな風景ですが、何かの瓦礫が無数に転がっています。
これも声を発することで徐々に動き出し、やがて独立した意思を持っているかのように動き出し、まとまり始めました。そうしてできたのは…
このような3体の立像。
勘の良い方ならもうお気づきでしょう。これは「声」で仮想空間に変化をもたらすというデジタルアートの手法で女性の自立と解放、および女性自身の意識改革を促す啓蒙コンテンツだったのでした。
本作はいずれにシーンにも英語のナレーションが付いていますが、これはイギリスの選挙制度に於いて女性に参政権が与えられるまで、また与えられて以降の「歴史」が反映されており、女性参政権獲得に重要な役割を果たした女性たちのリアルな人生がベースとなっています。
本作のタイトルの「Make Noise」は直訳すると「雑音を作れ」ですが、適切な訳は「女性たちよ声を上げろ!」なのでしょう。それを、実際に声を出すことで変化が生まれるデジタルアートとして表現するとは非常に”上手い”方法です。ただドキュメンタリー映像を見せられるよりはるかに面白く、何より印象に残ります。人間は一方的に与えられた情報はすぐに忘れてしまいますが、自分から起こした行動についてはなかなか忘れないものです。
もちろん本作はアート作品としても非常に美しいタイトルなので是非試してみて下さい。