(その1)のレポートはこちら
Slush Tokyo 2018にて計10社ものスタートアップと共同ブースを出展したフィンランド・ヘルシンキ市。2日目の出展企業のラインナップは、なんと全てがXR系でした。
■Immersal
Immersalは施設や大型店舗向けのARソリューションを開発・提供している企業。来店客にゲーム的なUIでポイントやクーポン、セール情報を配布したり、現在位置から特定の場所まで道案内をしたりと、直感的かつエンタメ感溢れるAR販促コンテンツを提供しています。
例えばこちらは、店内にスマホのカメラをかざすと頭上にポイントと商品情報が表示されるARポイントサービス。画面タップでポイントを拾いながら歩いていくと実際の売り場までたどり着けるという道案内も兼ねており、道のりで貯めたポイントを使ってすぐに商品を購入できる仕組みになっています。ARを試した人だけがポイントをGETできるプレミアム感も演出しているんですね。
こちらは商品の前でスマホのカメラをかざすと、商品名から価格、詳細な商品情報のページへのリンクが表示され、購入前にじっくり検討できるという商品紹介ARコンテンツ。これを先のポイント&道案内と組み合わせて使えば、来店客の誘導から実際の購入までの一連の流れを全てARでできてしまいます。また同社のソリューションは基本リアルタイム&多人数同時接続で、IngressやPokémon GOのような”みんなで一斉にプレイする”一体感も生み出せるのだとか。
■Vizor
Vizorは360度カメラで撮影したパノラマ画像をアップロードし、それぞれの画像をリンクさせたりテキストなどの情報を加えたりしてオンライン上に公開できるWeb VRプラットフォームを提供しています。
サイトのサポート言語は英語ですが、シンプル&直感的なUIで非常に分かりやすく、360度カメラから画像を取り込んで見せたい順番に並べていくだけですぐにWeb上にアップロードできます。複数のパノラマ画像を一度に見せたい時は、道から道へ、ドアからドアへと実際に移動していくように配置することも可能。画像をWeb上で公開すると固有のURLやタグが生成され、ページに貼ったりソーシャルメディア上で共有できるようになります。
こちらは美術館のデモですが、各作品の画像部分に概要や説明といったテキスト情報を加えることができます。VizorのプラットフォームはOculus VRのAPI「React VR」にも対応しており、アップロードされた画像はPC画面/スマホ/タブレット/ハイエンドなVRヘッドマウントディスプレイと全てのプラットフォームで閲覧できます。同社は2015年に設立されたばかりですが、初期段階で既に230万ドル(約2億6000万円)を調達しており、もちろんサービスのグローバル展開を目指しています。
■3rd Eye Studios
3rd Eye Studiosは、Remedy Entertainment、Unity Technologies、Bugbear Entertainment、RedLynx、Moon Studiosなどに在籍していたゲーム業界のベテランにより設立されたVRゲームディベロッパー。2016年6月に設立されたばかりですが、既に中国・上海にも現地オフィスを設立しており、アジア市場進出も目指しています。現在同社は第一弾タイトル「Downward Spiral: Horus Station」を開発中で、今回のSlush Tokyoではそのデモ版を試遊出展していました。
同タイトルは、突然放棄され廃墟と化した宇宙ステーションの中を探索し、未知の敵と戦ったり、隠れてやり過ごしたりしながら宇宙ステーション放棄の謎に迫るアクションゲーム。無重力の宇宙空間ならではの”浮遊感”にこだわったタイトルで、様々な武器や工具を使いこなして壊れたところを修理したり、迷路のような空間を彷徨いながら動きそうな扉を探したりといった謎解き要素もあります。ちなみにBGMにもこだわっており、サウンドトラックの製作には、解散が発表されたフィンランドのゴシックメタルバンド「HIM」のフロントマンであるVille Valoが参加しています。
■Leonidas
LeonidasはAR、VR、MRとXR系全てをカバーしているBtoB向けソリューションを提供している企業です。実は同社の拠点はヘルシンキではなく、同市から電車で1時間半~2時間程度のところにある内陸南部の都市タンペレなのですが(タンペレについては過去記事参照)、実はタンペレもヘルシンキに次いでXR産業が盛んな街で、フィンランド国内のXR企業の20%以上が同市に集結しています。
もともとタンペレは19世紀に水力発電で近代化し発展した工業都市で、そんな街の歴史からXRの活用場面も工業系の現場など”to B”が多いそうで、特に最近は移民が増えていることから、”言語に頼らない研修方法”としてXRが使われているとのこと。上の写真は、実際の工事現場のパノラマ動画の上に3DCGのアバターを重ねたインタラクティブな研修用VRコンテンツで、これからこの現場で働く移民の労働者に「こんな場所は危険」「こんな事故に注意」といった業務上の具体的な注意点を言葉ではなく”体験”で学んでもらうのだそうです。他にも、これと同様のバイク・自動車の教習所向け研修コンテンツもありました。
■Rakka
Rakkaは主にVR・パノラマ映像の撮影や音響制作、およびポストプロダクションを手掛ける企業で、さらにVR・パノラマ映像を使用したプレゼンや講演のコンサルから見本市へのブース出展における機器レンタルと、”VRの見せ方”全般にわたるビジネスを展開しています。実は同社もヘルシンキの企業ではなく、先にご紹介したLeonidasの拠点タンペレの隣町カンガサラに拠点を置いています(都市経済圏的にはタンペレに属す)。なんでもタンペレ界隈はXRが隆盛になる前から映像製作などメディア系のスタジオもたくさんあり、現在は従来の映像制作からVR・パノラマ映像にもチャレンジするクリエイターが増えているそうです。
今回Slush Tokyoに参戦したフィンランドのXR系企業は勿論みな日本市場に興味のあるところばかりで、日本での顧客やビジネスパートナーを探しています。現在フィンランド国内には100社以上ものXR企業が存在しており、何気に同国はEUにおけるXRホットスポットとなっているらしいのですが、どうしてもNokiaやLinux、Rovio、Supercellなどに代表される従来のTech系/ゲーム系のイメージが強く、「フィンランドでXR」がまだあまり知られていないとか。ということで、日本のXRクラスタの皆さんも今後は是非フィンランドにご注目下さい。
なお、1日目に出展したヘルシンキのAR企業Arilynは80社が出場したピッチコンテストでファイナリストに選出され、見事「エコシステム賞」を受賞し、副賞として「Tech in Asia Singapore 2018」と「Infinity Venture Summit 2018 Spring in Taipei」への参加権を獲得しました。おめでとうございます!