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【CEDEC 2009レポート】情報技術はどこへ行くのか?-主役は交代している-

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9月1日(火)より3日間の日程で、パシフィコ横浜にて社団法人コンピュータエンターテインメント協会(以下CESA)が主催する日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスイベント「CESA Developer Conference 2009(以下CEDEC 2009)」が開催された。同イベントはゲーム開発者同士の情報交換や交流、スキルアップを目的としたイベント。今年は開催11年目という新たなスタートの年ということもあり、会場をこれまでの大学施設からパシフィコ横浜・会議センターに移して大幅に開催規模を拡大。会期中に行われたセッション数は前回の1.5倍となる150回にも上った。

当サイトでは、この中から仮想世界や3D、アバターに関連した内容ををお伝えしていく。
まずイベント冒頭の基調講演に東京大学名誉教授の原島博氏が登壇し、「情報技術はどこへ行くのか?-主役は交代している-」と題した講演を行った。
【CEDEC 2009レポート】情報技術はどこへ行くのか?-主役は交代している-
原島氏は18歳のときに東京大学に入学して以来、今年3月に定年を迎えるまで45年間東京大学に”在籍”。ヒューマンコミュニケーション工学が専門で、日本アニメーション学会副会長や文化庁メディア芸術祭審査委員長、グッドデザイン賞審査員を務めたこともあるほか、「日本顔学会」を設立した“顔学者”としても知られている。
因みに氏のゲームとの縁は1985年に発売された「スーパーマリオブラザーズ」。子供にせがまれて購入したそうだが、全面クリアして「父親としての尊厳を勝ち取った」とのこと(しかし「2」は難し過ぎて怒り狂ったという)。
■主役は交代している
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まず氏はコンピュータの歴史を解説した。1946年にペンシルバニア大学にて世界最初の本格的コンピューター「ENIAC」が作られたことを皮切りに、その後49年には「EDSAC」、50年には「EDVAC」というコンピュータが作られた。こうした様々なコンピューターが作られた46年~65年頃は「成長期」に当たり、氏曰く「成長期」を脱してコンピューターが「大人」になったのは60年代半ばのことだという。その後IBMが64年に「System/360」を開発したことにより、専門家ではない一般人もコンピューターを扱えるようになった。そして翌年の65年には東京大学に東大大型計算機センターが開設された。氏はこれら一連の動きを「科学の情報化を目的としたもの」と表現。さらに70~80年代前半にかけてはIBMを中心とした「ビジネスの情報化」が進行。企業にも本格的にコンピューターが導入され始め、日本はひたすらIBMを追いかける時代へと突入する。
それから80年代前半まで、IBMはまさに「巨人」のように存在し崩すことは不可能であるかのように思われた。しかし氏曰く、実は「もしかしたら日本がIBMに追いつくのではないか?」と思われた時期もあったという。それは82年から行われた「第5世代コンピュータ」の研究で、第1世代の「真空管」、第2世代の「トランジスタ」、第3世代の「IC」、第4世代の「LSI」に続く「非ノイマン型」を用いた、人間が脳で行っていることをコンピュータに活用するというものだった。しかし日本がこの研究を行っている間に世界では「大型コンピューター」から「パーソナルコンピューター(PC)」へ移行するというパラダイムシフトが起こっており、結果的に「第5世代コンピュータプロジェクト」は失敗し、以後アメリカはますますコンピューター業界をリードすることになる。つまりコンピューターは「人間の脳」になるのではなく、「メディア」や「社会の基盤」となって「人間をサポートする」ことを求められるようになっていたのだ。
その後、PCは人間のすぐ側にある「個人秘書」のような存在となっていく。さらに1986年にCD-ROMの規格が定められると映像や音楽も扱えるようになり、マッキントッシュやファミリーコンピュータなど様々な情報機器が登場したことによりコンピューターの世界に“マルチメディアブーム”が到来。そしてサイバースペースやバーチャルリアリティ、World-Wide-Web(WWW)という新たな概念が生まれ、ますますコンピューターの「コミュニティ」としての側面が強まっていった。
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尚、こうした時代に氏が研究していたのが「いい顔に映るテレビ電話」。普通、テレビ電話というと喋っている自分の顔の映像を相手に見せるものだが、実はその方式は心理的に抵抗があり気軽に利用できるものではない(特に女性はメイクをしたり髪を整えたりといった作業が必要となる)。そこで、ありのままの自分を相手に見せるのではなく、あらかじめ用意しておいた「気に入った顔」を3Dモデルにして見せようというのが氏の研究だ。これは現在のアバターにも通じるかなり先進的な取り組みで、残念ながら実用化はされなかったが様々な方面で話題になったという。
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これら情報技術の歴史を解説した後、氏はIT業界のパラダイムシフトを上記のように整理した。コンピューターの誕生がIBMを生み、IBMが作った「IBM-PC」により一般にもPCが普及しマイクロソフトが登場、そのマイクロソフトが育てたWebブラウザがインターネットを一般的なものにし、やがて検索エンジンのGoogleが登場する。つまりIT業界のパラダイムシフトとは「主役交代の歴史」だというのだ。氏はこれを踏まえ「今はGoogleの栄華だが、今までの流れから言うと全ては変わっていく」と述べた。
■ゲームも「大人」になる時期
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続けて氏はゲームの歴史についても解説。氏によれば、70年代に登場したマイクロプロセッサによりコンピューターの小型化が可能となり、「Altair 8800」や「Apple I」といった家庭用のPCが誕生し、PC用の”コンピュータゲーム”が生まれた。続いて「Atari 2600」や「ファミリーコンピュータ」などのゲーム専用機が登場。以降ゲーム機は5年単位で最新のコンピューター技術を取り入れていった。このハードの進化により表現力が格段に向上したが、2000年代前半にはネットワークの進歩によりオンラインゲームが生まれた。このゲームの歴史はコンピューターの歴史と驚くほど一致する。
では今後ゲームはどのように進化していくのだろうか?氏はそのキーワードとして
・バーチャルからリアルへ
・グローバルからローカルへ
・パーソナルからコミュニティへ
の3点を挙げた。また合わせてゲームも「リアルとバーチャルを重ね合わせるような楽しみ方が出てくるのではないか」とも予測。インターフェイスもプレイヤーの実際の動きで操作できるWiiリモコンがあり、マイクロソフトも体の動きや声でゲームを操作できるXbox 360の新機能「Project Natal」を発表しているが、氏によれば「これが最終的な形ではない」という。リアルとバーチャルを行き来するのであれば、実際の体の動きに直結すると共に「単純化」にも向かうはずで、両手の10指を使うPCのキーボードから両手親指だけを使うゲームコントローラー、さらに片手の親指だけで操作できる携帯電話と、より人の活動を妨げない形のインターフェースが出現するだろうと予測した。
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しかし氏は「技術はゲームをサポートするものであって”主役”ではない。それなのに傍から見ていると、まるで技術が主役でそれに合わせてゲームが作られているようにも感じる。技術依存だけでゲームの将来を考えるのはおかしい」とも述べた。
情報技術は基本的に「ムーアの法則」(インテルの共同創業者ゴードン・ムーアが提唱した”集積回路上のトランジスタ数は18ヵ月ごとに倍になる”という法則)に従って発展するため、ハードも18ヵ月で性能は2倍、5年で10倍となる。それにより進化したハードに依存した高機能のソフト開発が求められることになるが、人間の能力はもちろん「ムーアの法則」に従って進化するわけではないので、結果ソフト開発が追いつかなくなり開発費が高騰、開発期間も長期化し失敗が許されなくなり、冒険的なソフトが作れなくなってしまう。そうして総合力を有するアメリカに負けるというわけだ。
氏によれば「技術」が商品の価値を決定するのは発展途上段階での現象で、ある程度成熟した段階になると「どのような付加価値を付けるか?」が重要になるという。つまり「技術」に依存しているゲームはまだ未成熟であり、「そろそろゲーム業界は大人になる必要がある」とのこと。そのためには、しっかりとしたビジネスモデルを持ち、産業としての総合力を身に付けること、そして「アメリカを追いかけないこと」が重要だという。アメリカを追いかけてばかりでは「第5世代コンピューター」の失敗を繰り返しかねない。「総合力、技術ではアメリカに勝てない。しかし日本は諸外国から見て面白い独自のゲーム開発ができるはず」と、日本独自の道を見出すべきだと主張した。
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