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ピザと仮想空間と古代シュメール文明と…3D仮想空間「Second Life」誕生のきっかけとなったサイバーパンク小説「スノウ・クラッシュ」

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スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

「メタバース」「アバター」という言葉を生み出した1992年刊行のポスト・サイバーパンク小説です。アメリカではサイバーパンク好きのSF愛好家やギークに熱狂的に支持されている作品で、Linden Lab元CEOのフィリップ・ローズデール氏もこれを読み3D仮想空間「Second Life」の構想を思いついたと語っています。
「スノウ・クラッシュ」の舞台は近未来のアメリカ。グローバル経済が行き着くところまで行った結果、アメリカの経済力は世界でもドン底レベルになり、もはや世界に誇れるものは「音楽」「映画」「ソフトウェア開発」「ピザの高速配達」しかないという体たらくに。合衆国も有名無実化し、大統領の名前なんて誰も知らない有様。一方、国土にはゲーテッド・コミュニティが進化・発展したような様々な種類の"フランチャイズ国家"(都市国家)が誕生し、勝手バラバラに国土を分割統治するようになりました。そんな世界を、凄腕ハッカーで時々ライブイベントのプロモーター、メタバース(仮想空間)では世界最強の剣士、でも今はピザの配達人という中年男「ヒロ・プロタゴニスト」と、スケボーで疾走する特急便屋の少女「Y.T」が駆け抜けます。
ピザ、スケボー、HIP HOP、ラウドミュージックと、”いかにも”な90年代MTV世代のアメリカのモチーフがちりばめられ、コミカルで疾走感溢れる描写もふんだんに盛り込まれているのでテンポ良く読み進められます。イメージ的に「メタバース」にばかり焦点が当てられている作品ではないかと思ってしまいますが、実際には仮想空間と現実世界(とはいえ相当ブッ飛んでいる)が交互に登場し、リアルとバーチャルが切り離されず、それらが自然に重なっている近未来社会が描いています。実際、作品内では一般人でも気軽にデパートなどに置かれている端末からメタバースにアクセスできるようになっており、メタバース内の会員制クラブには各界の有名人や芸能人が集います。一方現実社会では、宗教や人種や”稼業”などで多種多様な都市国家が形成されていますが、これはまさにSecond Life内の居住区やSIMのようなもの。バーチャルがリアル化し、リアルがバーチャル化しているというわけです。
物語は、ヒロ・プロタゴニストの友人でメタバース内の会員制クラブ「ブラック・サン」のオーナーである「Da5id」が、メタバース内で「スノウ・クラッシュ」と呼ばれるウィルスに接触しアバターが制御不能になったところから急展開します。スノウ・クラッシュはオンライン上のウイルスのはずなのに、リアルのDa5idも回復不可能な意識不明状態になってしまったのです。ヒロはこの謎を解くため、メタバース内の人工知能「ライブラリアン」と5000年前に存在したシュメール文明について語り合い、リアルでもメタバースでも同じ機能を持つ究極のメタ・ウイルス「ミー」の存在を知ります。このくだりはメタ・ウイルスの域を超えて人類の進化やキリスト教の創生にまで及び、少々難解に感じるかもしれませんが、知的好奇心が刺激され仮想空間云々は別にしてもかなり楽しめます。最後には、ロシアから流出した核兵器やカルト宗教、マフィア、難民船団、空母エンタープライズと一癖あるモチーフがひとかたまりになって押し寄せ、まさに”怒涛の展開”となります。SF、ユーモア、アクションetc...いろいろな要素が詰まったまるで玩具箱のような作品です。

スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

スノウ・クラッシュ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
スノウ・クラッシュ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

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