2008年バーチャルワールドの展望を語る インタビュー

第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 / 河嶋英治氏

更新日:

【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 / 河嶋英治氏
富士通は早くからバーチャルワールドの可能性に気づき、しかし急ぐことなく着実に知見を溜めている印象を受ける。長期的視野に立つ中で、現状をどのようにとらえているのか、話を聞いた。
(文中敬称略)

―― セカンドライフに取り組まれた背景や、これまでの経緯を教えてください。
【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 /  河嶋英治氏
富士通株式会社 マーケティング本部 企画部 芝崎英行氏

芝崎「ここ数年、重点的にインターネット関連のサービス・市場・企業・技術などの調査を行っており、その活動の中で2006年秋からセカンドライフの調査を始めました。そして、利用だけでなくバーチャルワールドにおけるサービス提供も含めた有効性を検証するために参入を決め、2007年1月に(セカンドライフ参入支援などを行っている)メルティングドッツさんとお話を始めました。参入に際し、基本的に『社内で企画・制作まで全て行う』方針のもと、デザイナーの内田と加藤を中心にSIM制作を行い、2007年6月・9月に開催した(実際の)展示会との連動による限定公開を経て、11月に一般公開となりました。」

【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 /  河嶋英治氏
富士通デザイン株式会社 WEBソリューションデザイン部 チーフデザイナー 内田弘樹氏

内田「私は以前、『コンテンツビジネス』という言葉が盛り上がったころに3D関連の仕事をしていたので3Dのデザインも経験がありました。でも、いろいろやってるうちにセカンドライフ内の他のデザインレベルも上がってきて、特に、環境デザインのレベルが上がり、自分だけでは対応しきれないと感じました(笑)。そこで、島(SIM)の景観を社内にいる環境デザインの担当者に相談したりしました。また、最初はセカンドライフのプリム数制限(※)のことをよく知らず、デザインに力を入れてたくさんのプリムを使ってしまったこともありましたね(笑)」

※編集注
「プリム」はセカンドライフでオブジェクトを作成する際に元になるもの。ひとつの島(SIM)には生成できるプリム数に限りがある。

【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 /  河嶋英治氏
富士通デザイン株式会社 WEBソリューションデザイン部 チーフデザイナー 加藤正義氏

加藤「その結果、プリム数が不足し、途中で何度も作り直したのもありますね。その他に苦労したことといえば3Dを操作する時のインタフェースですね。私も少しだけ3DCGソフトを使った経験はあるのですが、(前面・上面・側面の3面で立体を確認するインタフェースではない)セカンドライフのインタフェースには違和感がありました。」
内田「(手前を大きく遠方を小さく描画して遠近感を表現する)『パース』がついた状態で3Dオブジェクトを制作することはこれまでありませんでしたから。でも、今はかえってセカンドライフの方が使いやすいと感じるようになりました(笑)」
加藤「最近は、制作支援ツールもいろいろ出てきていますが、最終的なツールがこれしかないのはやはり不便ですね。」

―― バーチャルワールドで制作することで感じた特徴はありますか。
内田「ユーザーの方の反応を見る場合、Webはアクセスカウンタやアクセスログなど数字データが主になりますが、バーチャルワールドはユーザーが『何に興味を持ち、何に困り、どこに向かうのか』といったような場面の動線を直に見られたり、意見を実際にその場で聞きやすいのがいいですね。こうした感覚はこれまでなかった。楽しくて作業中に通りがかった人に島の案内や意見交換などをしています。作業進捗上の問題はありますが(笑)」
加藤「ユーザーとのコミュニケーションだけでなく、ユーザー同士のコミュニケーションを間近でみるということも新鮮でした。それから、自宅でも会社でもセカンドライフにログインすれば、同じ環境で作業が継続できるというのはとても画期的なことでした。」

―― 今回の企画のひとつとして、理化学研究所と脳に関する共同研究にバーチャルワールドを活用するお話がありますが、活用による想定メリットはどういったものがあるでしょうか。また、将棋というテーマになった理由は。
【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 /  河嶋英治氏
富士通株式会社 ネットワークサービス事業本部 事業企画部 プロジェクト部長 河嶋英治氏

河嶋「その件は私が担当しています。私の部署はネットワークサービス事業本部というところなのですが、そのミッションのひとつとして新しいものをキャッチアップする意味でも取り組んでいます。
ところで、ネットワークサービスでは当然多くのネットワーク回線の運用を伴うのですが、これはとても複雑で、実際いろいろなことが起こります。もちろん、そうした中でも安心して使っていただけるよう努めています。そうした中でも不具合が起きてしまった場合には原因を究明していく必要があるのですが、複雑なものはベテラン技術者の経験に頼る部分も大きいです。
この不具合に対する『ひらめき』が将棋の棋士が手を思いつく『ひらめき』と通じるところがあるのではないかというのが将棋をテーマにした理由です。どちらも、知識と経験から様々な状況を脳内でシミュレートし、『ひらめき』につながっています。
ただ、こうした話はどうしても難しくなってしまうので、それをわかりやすく説明するというのがバーチャルワールドを活用した趣旨です。まず今は将棋の場を提供することなどによって人にどう来てもらうか、といった検証の場になっています。」

―― セカンドライフ以外のバーチャルワールドへの取り組みは。
芝崎「国内外幾つかのバーチャルワールドは利用してみましたが、話題性・制作の自由度などの理由から、今回はセカンドライフを採用しました。しかしながら、その他のバーチャルワールドも引続きウォッチしていく予定です。」
永井「他のバーチャルワールドに取り組む可能性はありますが、まだ3Diの活用は入り口段階なので、それが既存のサービスやシステムとどう結びつくか、という面をもっと確認していかなければいけないと思っています。そうしたこともふまえて、今後の判断が必要になりますね。」

―― ITベンダーとしてこのノウハウをどう生かしていくのでしょうか。
【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 /  河嶋英治氏
株式会社富士通総研 第三コンサルティング本部 サービスマネジメント事業部 永井智氏

永井「近い始点で考えると、まずは制作・構築ビジネスが対象になるのではないかと思います。また、知見や経験を生かしたコンサルサービスの提供も考えられます。現時点では3Diをインターネットメディアのチャネルのひとつとして捉え、今後の発展動向を見ながら、その活用方法を探って行く形になると思います。」
内田「見る人が見やすいようにするにはどうすればいいか。バーチャルワールドの3D表現はそういった問いへの切り口のひとつとして使えると思います。」
加藤「バーチャルワールドがもう少し一般的になると、企業として人の移動にかかるコストを下げる効果が期待できます。実際にやってみて分かったことですが、バーチャルワールドには場を共有する体感がありますし、アバターを介したコミュニケーションには、ユーザー同士がお互いの立場を気にせずフラットにコミュニケーションできる雰囲気があります。今はまだまだですが、そうしたメリットを活かすことができそうです。」
河嶋「結局は今のネットと同じように自動化して無人になる方向にいってしまうかもしれませんが、バーチャルワールドは、人間の行動自体のほうが重要度が高いので、これまでのようなコンピュータとの付き合い方とちょっとちがう形になると思います。こうした場でノウハウを生かすことでいわゆる『効率化』とはちょっと違うメリットをだせるかもしれません。」

【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第4回「大手ITベンダー」第2部 富士通 内田弘樹氏 / 加藤正義氏 / 永井智氏 / 芝崎英行氏 /  河嶋英治氏

―― 最後に2008年の展望を聞かせてください。
芝崎「バーチャルワールドに対して可能性を感じていますが、2007年と比べ、『緩やかな上昇(ユーザー数、参入企業数など)』ではないかと思っています。参入当初から理解していたことですが、一層の普及には、PC性能や操作性の向上、優れたサービスの提供、それを"使う"カルチャーの醸成など、幾つもの課題があると考えるからです。そういった課題を踏まえつつも、早期に取り組み、有効性を検証することが大事だと考えており、将来のサービスへとつなげる年にしたいと思っています。」
永井「私も同じですね。あと、今はやはりセカンドライフが強いですが、セカンドライフ以外のバーチャルワールドがもっとメジャーになれば『バーチャルワールド=セカンドライフ』という認識も変わってくるかな、と。また、色々な企業の担当者様と会話させていただいていますが、とても冷静に3Diの動向をご覧になっている、という印象を強く受けました。そういった背景から、爆発的ではなさそうですが、おちついた緩やかな伸びを示すのではないかと期待しています。」
河嶋「まずは今の実験・検証を予定通り進めていきたい。そして、研究結果についてもたまったものがあればアウトプットをしていきたいですね。活動としては、より真剣にやる人が増えて中身が濃くなっていくのでは、と思っています。」
永井「富士通が自ら一人称で活動していく方向はこれからもあると思いますが、そのノウハウをもとにお客様と共に展開していくことができればいいですね。そうした例を今後は増やしていきたいです。」

-2008年バーチャルワールドの展望を語る, インタビュー

Copyright© vsmedia , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.