「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007」2日目の9月26日、「バーチャル環境でのストーリーテリング」と題したセッションが行われた。
「伝統的に、ストーリーは『始まり』『中間』『終り』で構成されている」
南カリフォルニア大学シネマ・アート・スクール教授のScott Fisher氏はいう。「ストーリーはストーリーを語る人と聞いている人の重要なコネクションになる。
それを聞いている人が、その世界感に納得し受け入れるために必要なものだ。」
同氏はバーチャル環境でイメージやサウンドを使ってインタラクティブにストーリーを語る手法について研究している。
また、同氏はストーリーを伝える観点からみた、これまでのメディアとバーチャル環境との違いについて「伝統的なメディアでは監督の立場からカメラの眼でストーリーを見る。バーチャルでインタラクティブな環境では視聴者自体がカメラになり、自由にストーリーを追うことになる。」
ユーザーがストーリーに参加することも考えられる。するとストーリーは様々な視点から語られることになるが、映画「羅生門」(監督:黒澤明)でも複数の登場人物の視点で語られる手法が使われている。
ところで、気づいた方もいるかもしれないが、こうした手法はコンピューターゲームによく似ている。Scott氏もプレイステーションを利用した「The Night Jouney」をビデオアーティストのBill Viola氏と制作した。ユーザーはBill Viola氏が作成した美しい幻想的な風景の中を自由に歩き回る。様々な出来事に対して自分なりの意味を付け加えていくことでストーリーが紡がれていく。
Scott氏はバーチャル環境の中だけで完結せず、現実世界とリンクしながらストーリーを進める「ユビキタスゲーム」の考え方も紹介した。ストーリーに従って指定の場所を訪れることで進んでいく手法だ。例えば、公園に行くと「図書館に行け」という指示がくる、というようなもの。これはキャラクター、ストーリーをどう作り上げるかが重要だという。
しかし、バーチャル環境でのストーリーテリングに最も重要なものは「バックストーリーを作る」ことだと語った。確かに、あらかじめ決められたストーリーをたどるのと違い、世界観がそのままストーリーとなるようなインタラクティブ環境ではユーザーがどんな行動をしても一貫した世界観が提供できなければならない。バックストーリーがあることで、こうしたつじつまを合わせるだけでなく、エモーショナルな部分を補完することができるという。
同氏は目指すべきバーチャル環境でのストーリーテリングについて「プレゼンス(存在感)を感じられるようなもの」と語った。
「できれば、ユーザーの記憶のようなものを取り込みたい。そうすれば、もっとプレゼンスを高めることができるだろう」