インタビュー コラム バーチャルワールド最前線

「メタバースが提示する世界」 デジタルハリウッド大学 杉山知之学長

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Second Lifeは、来るべくして登場した世界だ。
ぼくは30年前に音響シミュレーションの研究をしていたとき、計算機で仮想的に作られる世界を確かに在るものとして認知している自分に気がついた。計算機でシミュレーションされた設計中の音楽ホールの音を実際に聴くことができたからだ。ヴァーチャルリアリティという言葉は知らなかったけれど、まさにリアリティを意識した瞬間だった。
時は流れ80年代後半、ぼくはSimCityで世界を構築できる自由を、富士通Habitatでアバター同士のコミュニケーションの素晴らしさを知った。
1990年、ぼくはマルチメディアの専門家として世の中で扱われるようになった。そして講演でいつも「21世紀になったら、我々人類は、時間の流れと共に人生のステージを変化させていくという従来の運命に縛られることは無い。コンピューターにより作られる無限の空間に、自由に世界を築き、いかような自分にもなって、いくつもの人生を同時並行して送るようになるだろう」と持論を展開したものだった。
1993年のある日、ぼくはSilicon Graphics社のリアリティエンジン搭載ワークステーションで、仲間が開発したドライビングシミュレーターを運転していた。プログラムにより前方方向に無限に生成されていく「世界」の体験は素晴らしかった。適度にうねる丘、そこに生えている常緑樹、舗装されたばかりの道路、そして、ときには枯葉舞う田舎道。時速200Km以上のドライビング。ぼくの脳に、ゲームとは違うVRの「世界」での日常の楽しさが刻み込まれた。
Second Lifeやその他のメタバースに対して、今、懐疑的な意見を持つ人は多いだろう。でも、それはコンピューターが新たな世界を一般の人々に提示するとき、必ず起こってきたいつもの事だ。中でも技術的な問題はいずれは解決されてしまうことはあまりにも明らかだ。
そんなことより、Second Lifeは人間に新しい人生の過ごし方があることを気がつかせているところに恐ろしいほど大きな意味があるのだ。「この地球に棲む人類とは、いったい、どういう生物なのか?」そんな大きな問いに、ぼくたちが挑戦する時代に来てしまったのだ。
そう、世界は情報で創られるのだ!
【筆者略歴】
デジタルハリウッド大学 学長
杉山知之/工学博士
1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学の学長そして、デジタルハリウッド学校長を務めている。デジタルラジオ ニュービジネス フォーラム代表、福岡コンテンツ産業拠点推進会議会長を務め、また「新日本様式」協議会、CG-ARTS協会、デジタルコンテンツ協会など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。
著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

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