その他 レポート

【ライブレポート】ハメーンリンナでフィンランドの侍メタルバンド「Whispered」のライブを見てきた

更新日:

今回のフィンランド旅行の一番の目的はヘルシンキにて11月30日(水)〜12月1日(木)に開催された欧州最大のスタートアップ・フェス「Slush 16」の取材でしたが、その翌々日に私のFacebook友達のバンドがハメーンリンナ(Hämeenlinna)というヘルシンキから北へ約100kmほどのところにある街でライブをやるというので、せっかくの機会だから見に行ってきました。

ハメーンリンナは湖や13世紀に築城されたお城「ハメ城」、作曲家シベリウスの生家、自然公園、軍事博物館があり観光地としても人気の高い都市です。ヴァイキングメタル/フォークメタルバンドのチュリサス(Turisas)のホームタウンでもあるので知っているメタラーの方も多いのではないでしょうか。ヘルシンキからハメーンリンナへの移動は電車でもバスでも時間/料金ともにほとんど変わりませんが、電車の方が座席は広いしテーブルも付いてるし無料Wi-Fiはあるし電源はあるしで何かと快適そうなので、私はフィンランド国鉄の二階建て特急列車「InterCity」でハメーンリンナに行くことにしました。


フィンランド国鉄の名称はJRならぬ「VR」。フィンランドのVRネタを調べるため「Finland VR」でググっても鉄道関係のページしか出てこないので実に紛らわしいです。

VRの切符購入は海外旅行者にとっても便利で、なんと公式サイト(英語表記にも対応)から時刻表を調べて座席指定までしてそのままカード決済で購入できてしまいます。オンライン上で切符を購入するとメールとSMSの双方に切符のQRコードが送られてきて、乗車後にその画面を車掌に見せて専用端末でスキャンしてもらえばそれで完了。駅には改札らしきものはなく、実にスマートかつお手軽なシステムです。


これがメール/SMS宛に送られてくる切符のQRコードで、時間と座席番号も記載されています。画面をプリントアウトして乗車当日に持参してもOK。


んふんふ…(二階の席を指定したけど夜だから何も見えない…)

ヘルシンキからハメーンリンナまでの移動時間は1時間ちょっと。秋田県に例えるなら、ちょうどJR奥羽本線の各駅停車で横手⇔秋田間を移動するようなものです。切符代は時間帯や停車する駅の数によって変わりますが、私は運良く片道7ユーロ(約860円)という激安の時間帯を発見。それで二階建て、無料Wi-Fi、電源、食堂車、キッズスペースまである電車に乗れるなんて超お得です。北欧はなんでも物価が高いイメージですが、ちゃんと調べて選べば日本以上に安くてお得なものやサービスがたくさんあります。

そして20:00ちょっと過ぎにハメーンリンナ駅に着いたのですが…


んふ(うん、地方都市)

駅前に何もなくてあるのは駐車場に停まっている車だけ。20:00過ぎたらお店が全部閉まっているこの感じ、まさしく地方都市です。親近感と既視感がありまくりで海外旅行をしているプレミアム感がまるでありません。秋田県かここは!
調べてみたところ、ハメーンリンナで栄えているのは駅周辺ではなく、そこからしばらく歩いて川を渡った先にあるエリアとのこと。友達のバンドが出演するライブハウスは駅から徒歩7分程度と結構駅近ではありましたが、開始時間までまだかなり時間があったし夕食も食べたかったので、その川向こうのエリアまで歩いて手頃な価格のカフェかレストランを探すことにしました。そこで見つけたのが…


んふ(マクドナルド)

夜遅くまで開いている手頃なメシ屋がマクドナルドしかないってマジで北東北の地方都市かここは!マクドナルドだけはどこの国に行っても変わりません。わざわざフィンランドの地方都市まで出向いて食べる夕食がマクドナルドのビッグマックセット…。店内には日本の演歌とそっくりな曲調のフィンランド独自の歌謡曲「イスケルマ」が流れ、他の客は友達と喋っている地元の若者ばかり…もの凄い地方都市臭。何度も書きますが海外旅行をしている感じがしません。

このマクドナルドでしばらくボ〜っと過ごして暖を取ったあと、ライブが行われる「Suistoklubi」に移動しました。”川辺のクラブ”という立地そのまんまの店名です。


ライブの開始時間は23:00〜。日本の感覚だと遅っ!と思いますが、フィンランドではたくさんのバンドが出演するフェス以外はだいたいこんな時間らしいです。でも遅い時間の方が「ライブに行きたいのに仕事がまだ終わらない!」なんて焦ることはないし、小さい子供がいる家庭の人でも寝かしつけてから行こうと思えばできなくもありません。余程の人気アーティストでもない限りチケットの予約や事前購入は必要なく、当日いきなり会場に行って入店時にチケット代を支払えば入ることができます。ここら辺は日本のライブハウスと変わりませんが、別途ドリンクチャージを支払う必要はなく、入店しても必ずドリンクを注文しなければならないわけでもありません。むしろこの日はハメーンリンナの地元民よりも遠方から車で来ているファンの方が多く、アルコール類を呑んでいる人は少なめでした。ちなみにチケット代は10ユーロ(約1226円)ポッキリ!日本だったらインディーズバンドのライブでさえチケット代は1500円以上する場合があるし、必ずドリンクチャージは取られるしでなんだかんだ2000円はかかるでしょう。ライブを見るならフィンランドの方が断然お得です。

…で、私の友達がやっているバンドはこんなの↓

侍メロディックデスメタルバンドの「Whispered」です。

………いや、皆さんの言いたいことは分かります。ツッコミが間に合わないのも重々承知しています。しかしまずこれだけは言わせて下さい。彼らは決してふざけたイロモノバンドではありません。むしろ超真面目に「日本文化」と「メロディックデスメタル」の融合に取り組んでいます。とりあえず最新ミュージックビデオ「STRIKE!」をご覧下さい。


ね?カッコ良くないですか?悪ふざけでこんな曲が作れると思いますか?あとこれの前に公開されたミュージックビデオ「Sakura Omen」も力作です。


7分越えの壮大な構成。興味深いのは、桜に妖しさや儚さ、死のイメージを重ねていることです。実は桜って北欧でも植えられていて花見イベントも行われているのですが、ピンクだからか「かわいい」とか、桜吹雪を見て「ゴージャス」だとかそういう感想が多く、日本人が持つ桜に対する死のイメージを説明してもなかなか理解してもらえなかったりします。なのに彼らはちゃんとそれを理解し自分らなりに”消化”しているんですよね。和楽器の使用も絶妙かつ自然だし。このリサーチ力とアレンジセンスは只者ではありません。

バンドの歴史は古く、2001年に活動を開始したファンタジーと武士道をテーマとしたメロディックデスメタルバンド「Zealot」が前身で、2004年に「Whispered」として再編成し今に至ります。12年の活動歴の中で正式にリリースしたフルアルバムは3枚、2013年11月22日には北欧のメタルバンドを日本に紹介するライブイベント「LOUD & METAL MANIA」に出演し初来日公演を果たします。驚くべきは、この初来日公演まで彼らは日本に来たことがなく、それどころか日本語も分からず、さらにまだ20代の若者だということです。行ったこともない、言葉も分からない国をネタに何か作品を作れと言われてできますか?それも20代で。私なんてフィンランドについて知っていることなんてゲームとテクノロジーとメタルぐらいなもんです。みんなどれだけ日本が好きなんでしょうか。

近年の楽曲のモチーフは、侍や武士道など”いかにも”なものよりも、日本の伝説・伝承、妖怪、怪談といった少々ホラーテイストなものが目立ちます。例えばこの「Jikininki」は↓


タイトルどおり、小泉八雲の短編「食人鬼(じきにんき)」がモチーフだし…


この「Lady Of The Wind」のモチーフは雪女です。

他にも、アルバムにはのっぺらぼうや河童の楽曲が収録されているし、最新アルバム「Metsutan(滅譚): Songs of the Void」には江島縁起の五頭竜をモチーフとした全5曲からなる壮大な組曲が収録されています。もう侍メタルバンドじゃなくても”妖怪メタルバンド”でもいけるんじゃ…

そんなWhisperedのライブをタイミングよく現地フィンランドで見られたのは実にラッキーでした。


私の友達は真ん中にいるギター・ヴォーカルのJouni Valjakkaさん。基本的に彼がバンドのディレクションをしています。

ライブは当然のことながら3年前の来日公演よりもムチャクチャ良くなっていました。バンド全体の一体感といい爆発力といい格段にレベルアップしており、それに呼応するかのようにファンも大盛り上がり。先にご紹介した「Jikininki」の冒頭、日本語で「夢を見た…枯れ野の夢。その枯れ野、行けども人一人おらぬ。」という語りが入るのですが(※黒沢明の映画「乱」の一文字秀虎の台詞)、それを日本語なんて分からないであろう結構な人数のファンが一緒に暗唱していたのが印象的でした。本当はもっと臨場感のある写真をお見せしたいのですがiPhoneのカメラでの撮影(しかも後方から)ではこれが限界…。というか前方に現地のファンがたくさんいて前に行けない!特にこの日は今年最後のライブだったのでいつも以上に他の地域からもファンが集結していたようでした。ちょっともったいなかったのは、MCが全部フィンランド語だったので何を言っているのかサッパリ分からなかったこと。母国なんだから当たり前なんですけどね(メンバー自身は英語ペラペラ)。言葉が分かったらもっと楽しめたのになあ…

こんな感じで着実に母国でファンを獲得しているWhisperedですが、今年は最新アルバム「Metsutan(滅譚): Songs of the Void」のリリースに併せイギリスのメタルフェス「Bloodstock Open Air Festival」に出演したり、イギリスツアーを行ったりと海外進出にも着手しています。もちろん彼らは日本にもまた来たがっているし、アルバムの日本盤もリリースしたがっているし、日本のメタル系メディアにも取り上げて欲しがっているのですが、残念ながら日本向けに正式発表できるスケジュールはまだなにもないそうです。もったいなさ過ぎる!!

とりあえず2014年リリースの2ndアルバム「SHOGUNATE MACABRE」は日本コロムビアよりボーナストラック2曲付きで日本盤が出ています。

SHOGUNATE MACABRE
SHOGUNATE MACABRE

2010年リリースの1stアルバム「Thousand Swords」は本国版のみで日本からもiTunesAmazonでダウンロード購入できますが、実物のCDは現在入手困難。輸入CDショップで在庫があったらラッキーです。最新アルバムの「Metsutan(滅譚): Songs of the Void」に至ってはCDが入手困難なばかりか日本向けにダウンロード販売もされていないというのが現状です(シングルとして先行リリースされた「SAKURA OMEN」はダウンロード購入可能。iTunes/Amazon)。つくづくもったいない!


まあ私はプロモ盤もらったからいいんですけどね。そのうえ美味しいと評判のフィンランド名物のチョコまで貰ってしまいました。フィンランドのバンドマンのおもてなし力の高さよ。

ということで、これを見ている日本のレーベル各社様、プロモーター各社様、メタル系メディアの関係者様、どうか彼らの日本市場進出を助けてあげて下さい。彼らは真摯に日本文化に向き合っているし、なにより本気で日本に来たがっています。

バンドの公式サイトはこちら
http://www.whisperedband.com/

Facebookページはこちら
https://www.facebook.com/whisperedband/

■この日のセットリスト
Strike!
Jikininki
Hold The Sword
SAKURA OMEN
Tsukiakari(月明)
Kensei(剣聖)
Exile Of The Floating World
Bloodred Shores OF Enoshima
〜アンコール〜
Thousand Swords

SHOGUNATE MACABRE
SHOGUNATE MACABRE

-その他, レポート
-, ,

Copyright© vsmedia , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.