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【Slush 16レポート】実際に展示ブースで体験できたVR系デモのレポート3つ

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フィンランドのスタートアップ・フェス「Slush」シリーズに限らず、海外のTech系イベントに参加すると、開催国及びその国が属する地域のトレンドがなんとなく掴め、日本とは少々異なるスタートアップ文化や流行を感じ取ることができます。今回の「Slush 16」のセッションや出展ブース、ピッチコンテスト出場社をざっとチェックしてみたところ、以下のジャンルが目立っているように感じました。

・教育
・健康・医療
・食料
・音楽
・ゲーム/e-Sports
・AI
・VR

いずれも「フィンランド」という国を端的に表わしているジャンルだと思います。フィンランドの教育が良質であることは既によく知られており、今まさに国を挙げてブランド化して海外へも売り込もうとしているジャンルですし、健康や医療に関する「ヘルステック」ビジネスが盛んなのは、冬になると日照時間が激減すると共に気温が下がり、運動不足や深酒も重なってうつ病になってしまう人が多いから。食料に関する「フードテック」も考えてみればフィンランドにとっては大きな問題です。

【Slush 16レポート】実際に展示ブースで体験できたVR系デモのレポート3つ
正直に言うと、フィンランドの農作物は日本のものと比べるとお世辞にもレベルが高いとは言えません。確かに”素材”としての価格は安いのですが、サイズは極小だし色はぜんぜん着いていないし味もするんだかしないんだかというボンヤリ具合で糖度も低め。この農作物の作柄の悪さも、うつ病と同様に日照時間が短く日差しが弱いのが原因です。野菜・果物はちゃんと光を浴びないと大きく育たないし、綺麗に色も着かないし、味にも影響が出てしまうのです。なお、タイムリーにも11月28日に富士通がこのようなプレスリリースを発表をしました。

フィンランドに、完全人工光型植物工場を活用する、農作物の生産・販売を行う新会社を設立
LED、多段式栽培棚、フルオートメーションを組み合わせた新しい農業ICTシステムを実現

しかしSlushに参加してみて意外だったのは、日本だったらこのように大企業がまず取り組みそうな大きな問題さえ、フィンランドでは小規模なスタートアップが率先して取り組み、大真面目にマネタイズもしようとしていたことです。このフットワークの軽さはまだまだ日本社会には乏しく、心底「スタートアップ文化の違い」を実感しました。

興味深かったのは、それぞれのジャンルが別個のものとして独立しているのではなく「ゲームを教育に応用してFun Learning(子供に勉強と努力を強制するのではなく楽しみながら学ばせること)」や「AIをVRコンテンツに応用」などと他分野同士を絡めていた点。特にAIに関しては「どんな分野でも活用するのが当たり前のもの」と捉えられており、もはやAIの良し悪しや使う使わないを議論する段階ではないという印象を受けました。

個人的には、自殺率・死亡率・癌率・脳血管疾患率で全国ワースト1を達成した現代のディストピア・秋田県の豪雪地帯の横手市に住む水耕栽培農家の家の者としてヘルステックやフードテックにも興味はあったのですが…


んふんふ(VR系デモ人気過ぎワロタ)

もうSlushを歩けばVRに当たるというレベルでVR系の展示ブースが目立っており、しかもどのブースも人気で長蛇の列ができていたのです。並ぶのも面倒だし時間がもったいない…でも並ばないと体験できない…なんというジレンマ。ということで、貴重な時間を使って列に並び、実際に体験できたVR系デモの様子をご紹介したいと思います。

■ARで憧れのビジネスクラスを体験

Slushに出展する企業・団体は大半がTech系ですが、中にはそれ以外の企業・団体もいます。中でも大きな面積を確保し多くの来場者を集めていたのがフィンランドのナショナルフラッグキャリア「Finnair(フィンエアー)」のVRデモでした。フィンエアーはSlushと提携しており、今回は11月28日(月)-12月2日(金)にサンフランシスコ/ヘルシンキ間で双方発着の特別チャーター便を運行しました。


実に楽しそうな機内。もちろんこの特別チャーター便はビジネスクラスもエコノミークラスも全席Slush参加者。乗客全員Techギークな飛行機ってどんな雰囲気なんでしょうね?ちなみに照明の色はフィンランドの国旗をイメージした青に変更されています。


ヴァンター空港への着陸時にはこんなロゴ花火のサービスもあったとか。滑走路スタッフがファンキー。


フィンエアーのVRデモはVRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」と専用コントローラー「Oculus Touch」を使用したビジネスクラスの搭乗シミュレーション。わざわざ椅子が用意されているのはシートに座るところまで再現されているためです。眼前にはエコノミークラスよりもはるかに広々とした空間が広がり、通路を歩いて荷物を頭上ロッカーに収納した後にシートに座り、目の前のモニターや手元のコントロールパネルを操作する一連の動作を疑似体験できました。
フィンエアーにはファーストクラスが存在せず、実質このビジネスクラスが最上級のグレードとなります。チケット代は時期や混み具合によって変わりますが、一番高い時期だと往復100万円を超えることもあるハイクラス中のハイクラス。もう空飛ぶ高級ホテルです。そんなビジネスクラスの乗り心地をVRとは言え疑似体験できたのはとても貴重な機会でした。実際体験してみると、エコノミークラスよりも照明が暗めに設定されていたり(寝やすくするため)、モニターが大画面だったり、足元に脱いだ靴を収納できるスペースが設けられていたりと、ビジネスクラスのより細かい特徴を具体的に理解することができました。いつか本物のビジネスクラスに乗れる日が来ればよいのですが…。そんな顧客の”憧れ”をより具体的にするのにもVRデモは有効といえるでしょう。

■VRとARで物件を見学

んふんふ(何が見えるかな?)

スウェーデンのスタートアップwec360°は、VRとARで顧客に不動産物件を見学してもらうサービスを展開しています。現在スウェーデンでは人口が増え続けて住宅難が深刻な問題となっており、建築業界は新築ラッシュに沸いているのだとか。そうなると顧客の要求と実際の物件を上手くマッチングするサービスも必要となってきますが、wec360°では従来の映像や3Dアニメーションではなく、モデルルームの様子を360°画像・動画で撮影しVRデモとして顧客に提供します。印象的だったのは、ただモデルルームをVR化して見せるだけでなく、顧客の年齢層や好みに合わせて家具やインテリア、生活雑貨を加えた物件パターンも用意されていたこと。通常のモデルルームのVRデモだと整理整頓された部屋しか見ることができませんが、wec360°のVRデモでは、そこら辺に玩具が転がっていたり、ソファに脱ぎっぱなしの服が置かれていたりと現実の生活を想定した生活感のある部屋を体感できました。


さらに同社ではARで物件周辺の環境も説明。顧客にパンフレットで物件のざっくりしたイメージをアピールした後、それにタブレットのカメラをかざすと、画面上にポーンと物件とその周辺の3Dマップが表示される仕組みで、他にも物件の間取り図から実際の部屋の3DCGを表示させるデモもありました。いずれも紙資料そのものをARマーカーとして使用するマーカーレスタイプで、タブレットや紙資料の角度を変えることにより視点移動も可能。下から物件のある建物を見上げたり、物件付近の景色を鳥瞰図的に見て学校や公園といった物件周辺の施設の位置関係をチェックすることもできます。こうした3Dマップは既存のアプリでも見ることができますが、いちいち別のアプリを使うよりもスマートだし、何よりもインパクトがあって分かりやすく、顧客にとってはこちらの方がはるかに入居後の生活をイメージしやすいでしょう。また不動産関係者も、図面やモデルルーム段階から本格的に顧客へアピールできるメリットがあります。

■もし「HoloLens」が仕事場に導入されたら…

VR系出展で間違いなく一番人気だったのはフィンランドの電力技術とオートメーション技術の老舗企業(今年で創立127周年!)ABBのブースでした。なぜなら…


Microsoftの複合現実(MR)対応型ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」を使用したデモを展示していたからです。欧州でもHoloLensはまだまだレアな存在のためか、それを体験しようと多くの来場者がブースに詰めかけていました。


デモの内容は「もし実際の保守点検業務にHoloLensが導入されたら?」という、ほんのちょっと先の未来を再現したもの。機器の上に各部位の仕組みやどんな作業をすればいいのかといった情報が重ねて表示され、それに従って作業をすることでミスを未然に防ぐことができます。


こうした日々の業務を助けるARシステムは以前よりタブレット向けにあったようですが、これだと両手が塞がってしまい作業しにくいのが難点です。それに対しHoloLensは完全に両手が空くので作業の手を止める必要はなく、また現実の風景と環境音も認識できるので周囲とコミュニケーションを取りながら作業できます。実際に試してみると、「スタンドアロンでコードレス」「ダイヤルで簡単にサイズ調節が可能」「スペックの割には結構軽い」「開放型スピーカーなので周囲の音を遮らない」といったHoloLensの長所をより如実に感じることができました。HoloLens発表初期のデモは、主にゲームなど娯楽に関するものばかりでしたが、こうして仕事場での使用を想定したデモを体験してみると、むしろHoloLensは娯楽向けよりもエンジニア用ツールとして適しているんじゃないかと思えてきました。


ところでさり気なく「KEEP CALM AND TRY AR」(平静を保ちARを試せ)のステッカーが貼ってあったのが芸コマでした。いちいち遊び心に溢れています。
※「KEEP CALM AND ~」…イギリス政府が第二次世界大戦初期に国民の士気を高めるために作成したプロパガンダポスター「KEEP CALM AND CARRY ON」(平静を保ち普段の生活を続けよ)のパロディ。

Slush 16に参加する前は、「フィンランドはゲーム開発大国なんだから面白いVR系ゲームの出展もたくさんあるだろう」と予想していたのですが、それに反して普段の生活やビジネスで使用する実用系のVRデモばかりだったのが意外でした。しかしそれだけVRが一部のギークだけのものではなく一般層にも浸透しつつあることの表れなのかもしれません。

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