この「The End of the World」はジャンル的にはゲームアプリですが、総プレイ時間は20分程度と短く、ゲームというより「インタラクティブなショートアニメ」と表現した方が適切な作品です。描かれているテーマは「孤独」。本作は、終末を迎えた世界でたった1人生き残ってしまった男性の孤独な日々を通して”何気ない平和な日常”のありがたさを訴えかけます。
朝、男は一人きりでベッドで目を覚まします。画面をタッチすれば左右に移動でき、クローゼットをタッチすれば開けば服を着ることができますが、別に着なくてもプレイに支障はありません。なぜなら彼以外のに人間が存在しないのでパンツ一丁で過ごしてもぜんぜん問題ないからです。
電気はまだ生きているらしく、とりあえずリビングでコーヒーを沸かして飲みます。
室内でタバコも吸い放題です。その代わり一緒に朝食を食べてくれる人もいません。
やることもないので廃墟となった街をぶらつきます。よく画面を見るとゴミ箱の影に倒れて動かなくなった人間らしきものが転がっているのが見え、より一層男の孤独さが感じられます。
アパートの近くにあったバーでまだ飲めそうな酒やタバコを物色します。画面右にある時計をタッチすると…
在りし日のバーの姿が蘇りました。このように男の思い出の場所に行って時計をタッチすると、そこに眠る昔の姿や男の思い出が再現されます。
このバーはまだ世界が平和だった頃に彼女(妻?)と一緒に飲んだところでした。
なぜ世界が終末を迎えてしまったのか?このゲームは敢えてそれを明確に描かず、男を中心にモヤモヤとした描写だけで表現します。
そしてまた一人で朝を迎える男。
以前は彼女と一緒に朝を迎えていたのに…。
このように、本作は平和だった頃の思い出に1つ触れる度にパンツ一丁で放り出されるという描写が何度も繰り返され、精神的にかなりくるものがあります。
今は廃墟と化した映画館も、以前彼女と二人で映画を見た場所でした。
見晴らしの良い高台で彼女と二人で夕日を眺めたこともあったっけ…
でも、一時美しい思い出に浸った後には残酷な現実が待っているのです。
どんなに過去を懐かしんでもそれが戻ってくることはありません。幸せだった頃の思い出と荒廃し廃墟と化した世界の対比はあまりにも残酷で虚しさをかき立てます。
何気に細かいのは、ゲーム内の時間経過と共に男の部屋も街もどんどん荒れ果てていくことです。徐々に壁が剥がれて隙間が目立つようになり、建物が崩れていきます。
遂には男の精神も崩壊し、現実と虚構の境目が曖昧になっていきます。男が最期にとった行動とは……
敢えて細かく描写されず世界観の説明も一切無いことで想像が膨らみ、さらに哀愁漂うピアノのBGMも相まってプレイ後は鬱のドン底に突き落とされると共に、自分以外の誰かが常にいる日常が心底ありがたく思えてきます。この感じを他の作品に例えるなら、ちょうどドラえもんの傑作エピソードの一つ「どくさいスイッチ」を読んだ後のようです。通常は240円の有料アプリですが、現在セール中なのか無料になっているので是非プレイしてみて下さい。