この「The Abyss」は一応ゲームアプリの部類に入るのでしょうが、ゲームというよりインタラクティブアートと表現した方がしっくりくるタイトルです。
本作は、こちらから一切干渉できないボールの動きを追うショートアドベンチャーゲームです。起動すると真っ黒な空間の中にいきなりピンク色の顔が浮かび上がり、BGMは不協和音を巧みに使った不穏な雰囲気が漂う楽曲で、それと変化のない画面が相まって言いようのない不安感を煽ります。
そこで適当に画面を触ってみると、明るいピンクのオブジェクトだけは動かすことが可能だと分かりました。そこでまず顔のパーツをグリグリと回してみます。すると…
顔の向かって左側の目玉がゲームの主人公(?)のボールであることが分かりました。顔のパーツからこぼれたボールは暗闇の中、下へ下へと落ちていきます。
そして漏斗のようなオブジェクトの中に落ち、さらに細長い管のようなコースの中で落ちていきます。右側に置かれている妊婦のようなマネキンが印象的。
そのままベビーベッドの中に転げ落ち、ベッドごと坂のようなオブジェクトの上を滑ります。
そこからさらに普通のベッドへ。まるでピタゴラスイッチのようにボールが次々とオブジェクトの上に移動してシーンが展開していきます。
滑り台の上を滑って…
大きな顔の間を通りぬけ…
たくさんの車のオブジェクトの隙間をすり抜け…
大量の椅子とペンを通り過ぎ…
教会のような建物の中に入ると、指輪のようなものが一緒に落ちてきました。
一回プレイしただけだと「ちょっと変わった3Dアクションゲームだな」と思う程度ですが、2回、3回とプレイしていくうち、人間の一生を抽象化した作品であることに気付き、徐々に自分の人生を投影するようになります。これ以上ないくらいシンプルなデザインなので、プレイヤーが歩んできた人生によって如何ようにも見え方が変わるタイトルかもしれません。ゲームをプレイするというよりも、アート作品を鑑賞する感覚に近い作品です。