東京ゲームショウ2012の2日目となる9月21日(金)、GREEブースにてパネルディスカッション「ゲーミフィケーションの盛り上がりにみるゲームの力」が行われました。
「ゲーミフィケーション」とは、既存のサービスやサイト、日々の業務、社会活動など様々な場面にゲームの仕組みを取り入れて問題の解決やモチベーションの向上を行う活動のことで、昨年あたりから日本でもよく聞くようになりました。例えばバイトで仕事を覚えたりランクが上がるごとに名札にシールが貼られていく…というのもゲーミフィケーションの事例の一つでしょう。現在、ゲーミフィケーションは日本に於いてマーケティングやプロモーションと結び付け語られることが多いですが、このパネルディスカッションはゲーム側からゲーミフィケーションを語るという内容で進行していきました。
パネルディスカッションに登壇したのは、東日本大震災直後に節電を推進する#denkimeterをデザインしたことで知られる国際大学GLOCOM客員研究員の井上明人氏、ソーシャルゲームディベロッパーの株式会社エンタースフィア代表取締役の岡本基氏、同じくソーシャルゲームディベロッパーの株式会社gumi代表取締役社長の國光宏尚氏の3人で、モデレーターはGREEの澤田典宏氏が担当しました。
(左から) 國光宏尚氏、岡本基氏、井上明人氏
モデレーターの澤田典宏氏
■過去からの変動の可視化
まず最初のテーマは「過去からの変動の可視化」。レベル1が2になった、スコアが100上がったなど過去の自分からいかに成長したかを目に見える形で表現するといったもので、ユーザーのモチベーション維持・向上には必要不可欠なものです。これについて岡本氏は「ポケモン出現以降、一番強いのは”コレクション”要素」だと指摘。ポケモンでは冒険の過程で様々なモンスターを集めますが、これが”自分がどれだけ冒険を進めたか”を可視化しているというわけです。また國光氏は「特定の武器を三つ集めろ、街に特定の設備を建設しろ、といった”クエスト”もこれに含まれるのでは」と指摘しました。こうした変動の可視化は既に実際の業務にも応用されているとのことで、井上氏によれば「このタスクをこなしたらバッジをあげる」といったプロジェクト管理を取り入れている企業もあるそうです。このようなゲーミフィケーションのシステムを専門に提供する企業も既にあり、井上氏はその代表例としてBadgevilleを挙げました(vsmedia内のBadgevilleに関する過去記事はこちら)。Badgevilleでは既存のWebサイトのアクセスログを基に、サイト来訪やコメント投稿などのユーザーアクションをスコア化し「実績」や「ログインボーナス」のような形式えバッジを付与するシステムを提供しています。これらを活用することで実際にサイトのリピート率とPVを向上させることができた企業の事例もあるほか、社内プロジェクトにバッジ要素を加えたことで生産性が向上した若いベンチャー企業のケースもあるとのこと。
■場の文脈付け
次に、ゲーミフィケーションに使えそうな要素として「場の文脈付け」がテーマとして上げられました。「場の文脈付け」とは次にどのような行動を取らなければならないかをユーザーに想起させること。例えば「悪者がお姫さまをさらった」というストーリーを聞いたとき、何の指示がなくても「助けに行く」という選択が思い浮かぶような文脈のことです。岡本氏によれば、ゲームの世界観を伝える際に「ストーリーを語って聞かせる」以外に「デザインで伝える直感性」があるとのこと。敵キャラがいかにも踏めそうだったりと「見ただけで倒し方がなんとなく分かる」デザインであれば、海外に持っていってもプレイしてもらえます。「ストーリーで語るところもあれば、見た目で語るところもある」と岡本氏は例を示しました。さらに國光氏は”文脈付け”の応用としてエンターテインメント企業の「イメージの付け方」を挙げました。企業にとってイメージを明確に打ち出し固定ファンを獲得することは収益の面でも重要なことで大きな武器になりますが、実際にこれは難しいこと。しかしディズニーやピクサー、吉本、宝塚、ジブリといった企業はこれに成功しています。國光氏はこれを「『●●とはこういうものだ』という壮大なワンパターンでイメージを刷り込み、決まった一つの価値を提供し続けているから。しかし一般的なエンターテイメント産業はとにかくコンテンツを大量に出し続けなければならないため、この壮大なワンパターンが作れない」と分析。ちなみにgumiではこれを応用して、「任侠道」や「騎士道」などの「道」シリーズや、「幻獣姫」や「青春姫」などの「姫」シリーズをリリースすることでソーシャルゲームにパッケージ感を出し、さらにユーザーの厨二病的な心理をくすぐるモチーフを選択することにより、「今度はどんな厨二病的な欲求な満たしてくれるんだろう」とユーザーに期待されることを意識しているとのこと。
■達成すべき大きな目標をレイヤー化させていく
3つめのテーマは「達成すべき大きな目標をレイヤー化させていく」。澤田氏によれば、これは「ゲームがチュートリアルから始まって徐々にステップ・アップしていくような」状況を意味するもの。ゲームの導入部分では、まず達成しやすいところに目標を設定して徐々に難易度を上げていきます。これの分かりやすい例として岡本氏はXbox360の「実績システム」を提示し「ゲームでは少しずつ褒めてあげるのが重要」と語りました。「実績システム」とはゲームのやり込み具合を可視化したもので、ゲームを進めていくごとに徐々に解除されていきます。今ではソーシャルゲームにも広く取り入れられているシステムですが、岡本氏は「コンシューマーゲームでは良かったら褒めるし悪かったらダメとはっきり言うが、Free to Playのソーシャルゲームでは、ユーザーが簡単にプレイを止められる分”すごく褒める”か”普通に褒める”しかない」と指摘しました。確かにコンシューマーゲームは当初は失敗を重ねても、徐々に上達すれば達成感が味わえ、むしろ失敗がモチベーションの源になります。しかしソーシャルゲームの場合、一旦挫折するとそれがきっかけでプレイを止めることが多いです。これについて岡本氏は「コンシューマーゲームは子供の文化だったのではないか」と推察。子供は負けると悔しくなりなんとか頑張ってクリアしようとムキになりますが、大人は時間が無いので何か嫌なことがあると他の娯楽に切り替えてしまいます。國光氏もこれについて「子供の生活にはストレスが少ないが大人はストレスしかない生活をしているので、ゲームの中でまでストレスを感じたくないのかも。”頻繁に褒める”ということがソーシャルゲームの大きな価値の一つではないか」と語りました。映画やテレビ、コンシューマーゲームなど従来のエンターテイメントは、それを楽しむための特別な時間(休日)を必要としていました。そのためこれらのエンターテイメントが一般人の生活に直接影響を与えることはなく、だからこそ「余暇」と呼ばれてきました。しかしソーシャルゲームは、通勤時間や休み時間、就寝前のちょっとした時間などいつでも気軽に遊べます。つまりソーシャルゲームは日常に入り込んでいるエンターテイメントで、つまらない日常に彩りを与えてくれれる存在だというわけです。これについて井上氏も「ゲーミフィケーションは、人々の日常にゲームを持ち込めるということ。コンシューマーゲームは電源を入れないと遊べないが、ソーシャルゲームはiPhoneとSNSがあればいつでもゲームを遊ぶことができる。これは日常そのものをハードにできるのと同じ。」と賛同。そういう意味ではソーシャルゲームとゲーミフィケーションは非常に似ており、井上氏は「日常をプラットフォームにした初めてのゲームがソーシャルゲーム」との見解を示しました。
最後にこのセッションのまとめとして、岡本氏は「コンシューマゲームでもソーシャルゲームでも意外とノウハウは共通している。ゲーミフィケーションも実際にちょっとやってみる姿勢がゲーム開発者には重要ではないか」と語りました。また國光氏は「ゲームには生産性も意味もないが、それでも人はゲームをやってしまう。一方人生は本来意味があるものなのになぜか面白くない。どうせ人生を過ごすなら面白いことをして毎日楽しく暮らそうというのがゲーミフィケーションの基本ではないか」との見解を示しました。そして井上氏は「日本国内ではまだゲーミフィケーションの勢いは弱いが、今後5~10年経てば事情は変わってくる。今コンシューマゲームの開発者がソーシャルゲームに参入しているが、ゲーミフィケーションもこれと同じでお互いが交流することにより新しい知見も得られるだろう」と、ゲーム業界とゲーミフィケーション業界の積極的な交流への期待を語りました。