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【独占インタビュー】「3Dインターネットは谷を過ぎた」湯川鶴章氏が語る3Dインターネットの真価

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7月16日(木)・17日(金)の2日間、東京国際フォーラムで「3Dインターネット・ビジネスフォーラム」が「BusinessBlog & SNSWorld 2009」「Next Advertising & Marketing 2009」と共に開催される。本イベントで「次世代のコミュニケーション&マーケティング最新事情」 と題した基調講演を務めるのが、時事通信社編集委員の湯川鶴章氏だ。
開催まであと1週間。THE SECOND TIMESが行った湯川氏への独占インタビューの模様をお伝えする。

3Dインターネット・ビジネスフォーラム
http://www.next-communication-marketing.net/
※入場料3000円が無料になる事前登録受付中!
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「IT革命の本質の一つは、20世紀後半のマス文化の中で失われたきめ細かなサービスを、テクノロジーの力を持って取り戻すことだ」
時事通信社の編集委員であり、ハイテク産業を黎明期から見続ける湯川鶴章氏は、2008年秋に出版され、増刷を重ねる自著「次世代マーケティングプラットフォーム」の中でそう語っている。効率を重視するマス文化により顧客対応プロセスを役割分担し、それぞれ画一化することによりコストパフォーマンスが上げてきた一方、顧客ごとのきめ細かな対応は次第に失われていった。
同氏はその失われた「きめ細かな」サービスの典型を「三河屋さん的なサービス」と呼ぶ。これはマンガ『サザエさん』に出てくる酒屋の三河屋さんから来ている。三河屋さんは地域に住む人々の生活に密着し、それぞれの家庭の状況を把握しながら適切なタイミングで適切なサービスを提供することで、顧客と常に「ワン・トゥ・ワン」の関係を構築している。まさに今起きているのはテクノロジーの力で三河屋さん的なサービスを取り戻すということなのだという。
そうした変化の中で、オンライン3D空間をコミュニケーションの場として利用する3Dインターネットは何ができるのだろうか。
7月16日(木)、17日(金)に東京国際フォーラムで開催される「3Dインターネットビジネスフォーラム」で基調講演を予定する湯川氏に、客観的に見る3Dインターネットの立ち位置について話を聞いた。
(聞き手:THE SECOND TIMES編集長 箱田雅彦)
■3Dインターネットは『谷』を過ぎた

――― 新しいテクノロジーが普及に至るまでの流れをみると、初期に急激に盛り上がり、いったん落ち込んだ後、次第にまた昇り始める「ハイプカーブ」という曲線を描くといわれます。その観点でいえば3Dインターネットは2年ほど前にひとつ目のピークを迎えましたが、湯川さんから見て現在の3Dインターネットはハイプカーブのどのあたりにいると思いますか?
「感覚的に『谷』は過ぎたと思っています。当時、いろいろな人に話を聞くとセカンドライフがAPIを公開してみんな繋がっていくといわれていましたが、そうはなりませんでした。当時はまだ要求に比べて環境的に時期尚早だった部分もあって次第に落ち着きましたが、また動き始めていると思います。」
――― 確かに、一例でいえばセカンドライフは2009年第1四半期のユーザー間取引額が1.2億米ドル(約120億円)となり、過去最高となりました。企業利用に先行して、まずはユーザーによるクリエイティブなオンライン3D空間として受け入れられてきた感があります。
「そうですね。あと、僕はあの頃にいわれていた『もうひとつの世界』という考え方も、10年とか50年とかいうスパンで考えたら十分にありうると思っています。でも、それはすぐの話ではない。」
――― では、3Dインターネットはどういった用途から使われていくでしょうか。
「まずは現実世界の置き換えから進んでいってますが、それはディスプレイでいえば『グリーンディスプレイがカラーになった』という類のもので真の価値ということではないと思っています。」

■現実世界の模倣だけでは真価は発揮できない
――― 3Dインターネットが汎用化するために必要なことはなんでしょうか。
「やはりキラーアプリが必要ですが、3Dインターネットでそれはまだ出てきていません。必要なのは、現実世界ではできないオンライン3D空間ならではの体験を作ることです。ただ、残念ながら具体的にそれがなにかというのはまだ分からない。でも可能性を感じます。」
――― それは例えばどういったイメージになりますか。
「例えば、表計算でいえば数十行の表なら手作業でできますが、1000行になったら手作業ではとても無理です。でもExcelであれば1000行でもまったく問題ない。そうした実際にはできないことができるというのはあると思います。でも、もっと必要なのはそうした現実の置き換えによる連続的な変化による価値ではなく、非連続的な変化による価値です。現在はまだ現実を模倣している段階で、答えはまだですね。」
■突然変異にはオープン性が必要
――― 例えばデジタルサイネージなど、他の動きと関係していくことによる変化はどうでしょう。
「オンライン3D空間をデジタルサイネージで活用する方向性は十分にあります。ただ、そこはPCで培ったテクノロジーを持ってくる形で、PCでの利用法を超えることはまずないと考えています。なぜならデジタルサイネージは端末が固定されたせいぜい数百台の規模のものなので、安定している分、利用法の突然変異は起こりにくいと思います。」
――― 新たな利用法が生まれるために必要なことはなんでしょうか。
「これまでの利用法を超えた突然変異を起こすためには(テクノロジーが)オープンである必要があります。企業や個人などのユーザーがいじれる環境が必要ですね。」

■UGDの文脈で3Dインターネットが使われる?
――― ネットと現実世界との関わりで3Dインターネットが担えるのはどういった部分になりますか。マスが担ってきた部分の置き換えは起こるのでしょうか。
「(様々な製品の生産方法に関して)僕はマスが終わるとは思っていません。でも、今後は大量生産ではなく、ユーザーが自分で作り出すような動きが活発になってくると思います。いわゆるUGD(ユーザー・ジェネレイテッド・デバイス)の流れですね。UGDがネット流通する際の基本的なインタフェースとして3Dインターネットは可能性を持っていると思います。」
インタビュー中、湯川氏は3Dインターネットをあくまで企業とユーザーを結ぶ「コミュニケーションのひとつのルート」と指摘するのと同時に、「3Dインターネットの可能性は現実世界の模倣・置き換えだけではなく、むしろそれ以外の部分にある」ということを繰り返し語っていた。筆者も同感だ。用途を限らない空間メタファーをオンラインで自由に扱えるようになり、ここに多くの知見が結集することで従来とは非連続の変化が起きることが期待される。
ハイプカーブの谷を越えた3Dインターネットはかつての喧騒を離れ、ネット技術のひとつとしての立ち位置を見出そうとしている。
3Dインターネットビジネスフォーラム
http://www.next-communication-marketing.net/
※入場料3000円が無料になる事前登録受付中!
湯川鶴章のIT潮流
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