ウィリアム・ギブスンと帝政ロシアと江戸文化とアキバ文化とマトリックスを全部足してアメリカ横断ウルトラクイズで割った歴史改変SF「赤い星」

   2014/11/22

赤い星 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

高野史緒さんの歴史改変SF小説「赤い星」を一言で言い表すなら、ウィリアム・ギブスンと帝政ロシアと江戸の庶民文化と秋葉原発オタク文化と映画「マトリックス」シリーズを全部足して「アメリカ横断ウルトラクイズ」で割ったような作品です。なんのこっちゃ?と思われるかもしれませんが、それくらい「一体いつの時代に迷い込んでしまったのだろう?」と不思議な感覚が味わえます。

冒頭、ます老若2人の修道士がロシア新皇帝の戴冠式をインターネットのライブストリーミングで観ているところから話が始まります。帝政ロシアとインターネット??さらにこの2人の会話から、かつてロシアには「ソビエト連邦」があったこと、領海問題による戦争の結果日本がロシアの属国となっていること、日本には徳川幕府が存在することなどが明らかになってきます。一方日本の江戸では、町の中をロシアンマフィアたちが闊歩し、将軍職は残っているものの幕閣にはロシア高官が介入、ちなみに吉原の灯はネオン管とモニター、秋葉原はやはりオタクの聖地…。この日本では、誰もがピョートル大帝によって沼地に強制的に造られた都市「ペテルブルク」に憧れています。一番人気のインターネット番組は、国民的人気タレントの大黒屋光太夫が司会を務める「シベリア横断ウルトラクイズ」。優勝商品はペテルブルクの永住権です。
正直なところ、日本史と世界史、オタク文化、ITの予備知識がないと舞台設定を理解するのは少々難しいかもしれません。しかしそれらを予習してから読むと、随所にパロディネタが仕込まれているので終始ニヤニヤしながら読むことができます。
物語は日本の江戸とロシアのペテルブルクで交互に展開しますが、その間を埋めるものとして「仮想空間ペテルブルク」が登場します。江戸の町娘でハッカーのおきみは、音楽家でペテルブルクに行ったきり消息不明になってしまった恋人・龍太郎の身を案じ、彼の情報を得るためペテルブルクへ行くことを切望します。その手近な情報収集の手段の一つとして、自身のアバター<ヒロシゲさん>を操り「仮想空間ペテルブルク」へとログインします。文中の描写から、その仮想空間には多数の企業がスポンサーとして参入しており、アバターやアバターに着せる衣装などのアイテムも企業が自社の商標付きのものを提供していること、それ以外の普通のアイテムを買うには仮想通貨「ドル」を使用しなければならないことなどが分かります。そこでおきみ(<ヒロシゲさん>)は、仮想のエカテリーナ女帝(これも他のユーザーのアバター)のとりまきとして仕え、「カーチャ」という女性アバターと仮想結婚します…って、つまりは「ネカマ」の逆バージョンですね。なお、この「カーチャ」とは物語序盤で早々に離婚してしまうのですが、なぜかおきみはリアルな喪失感と悲しみを味わいます。おきみは実際には女性で、「カーチャ」を操作するユーザーも実際は女性がどうか分からない、もしかしたらロシアのおっサンかもしれないのに、感じる気持ちだけはリアルなもの。このあたりは、実際にオンライン上で恋愛をした経験のある人なら共感を覚えるのではないでしょうか。
やがて物語は、江戸と現実のペテルブルク、仮想空間「ペテルブルク」、さらにシベリア横断ウルトラクイズの4つが絡み、徐々にどこからがリアルでどこからがヴァーチャルなのか分からなくなるほどもつれ合って最後の最後に択捉島の修道院であっと驚くドンデン返しを迎えます。それは読んでのお楽しみ……

赤い星 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
赤い星 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

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