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【CEDEC 2008レポート】クリエイターと経営陣、双方歩み寄りを------稲船敬二氏講演「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」

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CEDEC2日目の基調講演では、株式会社カプコン常務執行役員 開発統括本部長兼オンライン事業統括で、仮想世界業界ではダレットワールドを運営する株式会社ダレットの代表取締役社長として知られる稲船敬二氏が、「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」と題しクリエイターと経営者の双方が歩み寄りゲーム開発を行う重要性について語った。

尚、氏の講演は資料を一切用意せずただひたすら話し続けるというCEDECの全講演を見渡しても非常に珍しいスタイルだった。
【CEDEC 2008レポート】クリエイターと経営陣、双方歩み寄りを------稲船敬二氏講演「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」
株式会社カプコン常務執行役員 開発統括本部長兼オンライン事業統括
株式会社ダレット代表取締役社長
稲船敬二氏

■矛盾を克服することが大切
「ゲームを作る」ことはそもそも”クリエイティブ”な行為で、クリエイティブとビジネスは本来矛盾する行為だ。実際稲船氏も、開発中のゲームを今期中に間に合わせて欲しいと経営陣から言われると煩わしく感じることもあるという。しかし「ゲームをどのようにビジネスに生かしていくかを考えるのが成功の鍵」とし、「カプコンは次々と新しいことをやっているように見え外部からは羨ましく思えるかもしれないが、実はビジネスのことも考えていて、これが新しいものを作る原動力となっている」とも語り、クリエイティブな面だけでなくビジネス面も考える必要性があることを示した。
また氏は、「ゲームとビジネスはある種の対義語」と語り、その例として「男性が女性にモテる方法」を挙げた。女性はよく「優しい男性が好き」と言い、また「頼りがいがある人が好き」とも言う。しかし実際のところ、優しい人は頼りがいがなく見えるし、頼りがいがある人は偉そうで優しい人には見えにくい。しかしこの矛盾を克服し両立すれば必ずモテる。ゲーム開発者もこれと同じで、思考停止に陥らずクリエイティブとビジネスの両立を全クリエイターが考えるべきだと指摘した。
【CEDEC 2008レポート】クリエイターと経営陣、双方歩み寄りを------稲船敬二氏講演「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」
■時には嘘も必要
氏は続けてカプコン再生のエピソードも披露。氏はゲーマーの間ではカプコンの看板ゲーム「ロックマン」「鬼武者」シリーズの名プロデューサーとして知られているが、4年前からは同社のゲーム開発を統括する立場にいる。氏曰く、4年前の当時の同社は”どん底”の状態で、経営サイドからはとにかく「リスクを回避しろ、新しいゲームは作るな、続編でお金になりそうなものだけをやれ!」と言われ続けたとのこと。しかし氏はそこで「はい、わかりました」と答えて、実際は全部逆のことをしたという。氏は「時には嘘をつくことも大切」と述べ、「『絶対売れるか?』と聞かれたら『絶対売れます!』と嘘を言って押し通せばいい。信じるか信じないかは相手次第だが、やる前から『自分にそんなことはできない』と言うのは自信のない証拠だ」とし、さらに「クリエイターは甘えている」と敢えて手厳しい言葉を続けた。そして「自分には才能があるのに経営陣は分かってくれない、と言ってクリエイターは逃げ、独立するが、実際はヒット作を生み出せない。ビジネス面から逃げてはヒットは生まれない。」と語った。
しかし氏は、クリエイターだけでなく経営陣にも問題があると指摘。「経営者はゲームよりも諭吉(金)が好きで、諭吉をいかに増やすかが彼らにとってのゲーム。頼りがいがあるが偉そうで、優しくない人が多い」と述べ、「クリエイターは甘えていて、経営者は偉そう。互いに理解しようとする姿勢がないのがゲーム業界の一番悪いところ。ここが合致しない限りヒットは生まれない」と、両者が互いに歩み寄ることの重要性を語った。
■株価チェックで経営者の視点を学ぶ
では、クリエイター側がビジネス側に歩み寄るには具体的にどのようなことをすればいいのか?その一例として、氏は携帯などで株価をチェックすることを薦めた。氏は株をあまり持っておらず買いたいとも思わないそうだが、同社の株価は頻繁にチェックするそうで、「株価を見ることで経営者の考え方や世間の評価、自分達の行動が株価にどう影響するのかを理解できるようになり、ゲーム業界の中でどの会社よりも上なのか、下なのかも分かる」と解説。しかし「任天堂だけは比べるだけ無駄なので見なくていい」と注意し会場の笑いを誘っていた。
【CEDEC 2008レポート】クリエイターと経営陣、双方歩み寄りを------稲船敬二氏講演「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」
■日本だけでなく海外を視野に
また氏は自身の海外戦略に対する考え方も披露。カプコンは早い時期からXbox 360用のゲームの開発を行っていたが、その際、様々な人から「なぜXbox 360でやるのか?あれだけ失敗していては無理だろう」と言われたという。これに対して氏は「頑張れば何とかなるんじゃないですか?」と答え、日本だけを見ずに海外で外国人が考えることをやってやろう思っていたとのこと。そして「外国人の考えていることは分からない。だからできることだけやればいいと日本市場だけを狙う。でも最初から無理と決め付けていいのだろうか?」と疑問を投げかけた。
■iPhoneからフロンティアスピリッツを知る
尚、稲船氏は最近iPhoneを購入したそうだが、その難易度の高さに衝撃を受けたという。まず操作に慣れるのが難しく今まで使用していた携帯から電話帳も移せない。そもそも説明書すらないという有様で、日本の常識では考えられないことがたくさんあり、購入当初の印象は正直あまり良くはなかったそうだ。しかし氏はそこに外国人の「フロンティア精神」を見たという。「日本人は同じ会社の同じ機種に交換しようという意識が強いが、外国人にはフロンティア精神がある。今までの携帯と比べるからつまらなく感じるのであり、敢えて使いにくい携帯を持ち使いこなせるよう攻略するのが”ゲーム”だと思えば楽しくなった」とのことで、ここから世界と日本の大きな差に気付くと同時に、さらに柔軟性に目覚めたという。そして「海外にはフロンティア精神に富み、形式や建前に囚われない動きをする人々がたくさんいる。日本のゲーム業界はこれについていけていない」と業界の姿勢を指摘した。
【CEDEC 2008レポート】クリエイターと経営陣、双方歩み寄りを------稲船敬二氏講演「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」
■ブラジルから前半で3点を取ったら、次は……
最後に氏は、経営をサッカーに例えて日本の現状と自身の考えを説明した。仮に、日本とブラジルがサッカーの試合をして前半にブラジルに3点を取られたとする。ここで監督は何と指示を出すだろうか?「これ以上点はやれないからディフェンスを増やせ」とは言わず、8人で攻めろと指示するだろう。しかし氏は、現在の日本のゲーム業界は「8人で守れ」と言っているようなものだと言う。日本のゲーム業界がやっているのは、3点を取られ攻めに転じる必要があるにも関わらず、未だに閉鎖的・保守的で守備重視だと鋭く指摘した。
では逆に、前半でブラジルから3点を取ったら次はどうするだろうか?氏は「ディフェンスに8人回れと言うのはバカな経営者。僕が経営者なら8人で攻めて4点目を取れと言う。攻撃を重視すれば相手にボールをやる時間を半分にして守備の時間も半分にできる。攻撃は最大の防御。それと同じで、今の日本のゲーム業界は苦しいとき。だからこそ攻めなければいけない。そして調子が良くなってきたらもっと攻めなければいけない」と語った。
■ゲームを作れるなら経営もできる
一時期、カプコンには「良い物を作るために遅れて何が悪い」といった風潮があったという。しかし氏はこれを「甘え」と一刀両断。たとえ良いものを作るために時間が必要とはいえ、クリエイターも「できない」と開き直るのではなくきちんと経営陣と向き合って、明確な数字を提示して説得しなければいけないと語った。一方で経営陣の問題点も指摘。「経営者がクリエイターに対し、どうせ専門学校出のゲームバカだろう。こっちは大学の経済学部を出ているんだ、ゲームバカに経営について言われる筋合いはない、と思ってはいけない。クリエイターに対して耳を傾けることで道が開けてくることもある」と、クリエイターへの理解を促すと共に、「経営や数字はそんなに難しくなく、ゲームを作る力があれば理解できるはず」と、クリエイターに対しより一層の歩み寄りを促した。
さらに氏は日本のゲーム業界におけるクリエイターを取り巻く問題についても指摘。日本では、大ヒット作が出てもその恩恵がクリエイター側に反映されず個人報酬が少ない。しかし海外で大ヒット作を作れれば、現金だけでなくストックオプションでクリエイターも豊かになれる。このシステムの不備もまたクリエイターが経営を考えない1つの原因となっている。氏はこうした国内のシステムも徐々に変えていきたいとし、「カプコンもブラジルから3点を取った状態にあるが、これから守りに入って4点、5点と取られるのか、それとも4点目を取れるのか。これからの数年先の取り組みを見てもらいたい」と述べ講演を締めくくった。
株式会社カプコン
http://www.capcom.co.jp/
株式会社ダレット
http://www.daletto.com/
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