2008年バーチャルワールドの展望を語る インタビュー

第7回「インベスター」第2部 GMO Venture Partners 村松竜氏 / 塩田幸子氏

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【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第7回「インベスター」第2部 GMO Venture Partners 村松竜氏 / 塩田幸子氏
GMOインターネットグループでベンチャー企業向け支援事業を行うGMO Venture Partners株式会社は2007年2月には「Second Lifeビジネス・デザインコンテスト」を開催するなど、バーチャルワールド(メタバース)に早期から注目し、活動を開始していた。当時、いちユーザーとしてセカンドライフを楽しんでいた私(箱田)もこのコンテストに応募させていただき、幸いにして賞をいただくことができた。その意味でもこのコンテストは大変思い出深いイベントだ。
その後もGMO Venture Partnersは「仮想世界」関連ベンチャー企業への投資育成に特化した「仮想世界ファンド」を設立し、株式会社マグスルへの出資を行うなど継続的に活動を続けている。
これまでの背景と今後の展望について、GMO Venture Partners株式会社取締役 村松竜氏、マネージャー塩田幸子氏に話を聞いた。
(文中敬称略)
―― 2007年初頭にPaperboy&co.さんと共同で開催された「セカンドライフビジネスデザインコンテスト」では、当時一般参加者として私もお世話になりました。その実施の経緯はどのようなものだったのでしょうか。
【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第7回「インベスター」第2部 GMO Venture Partners 村松竜氏 / 塩田幸子氏
塩田「セカンドライフについては2006年の秋冬くらいからニュースで見るようになって、自分でもやってみていました。その時は『重いなあ』とか『変な見た目だなあ』とかよく言われるようなことを考えていたんですよ(笑)
でも、『日本で流行るかどうか』とは別に、すごく柔軟なサービスが出てきたなと思っていました。ユーザーが活動することについて(最低限の決まりはあっても)ほとんどルールを設けていない場所が出てきた、と。それで、とても興味深く見ていたところ、2007年の年明けくらいから(GMO)グループ内でも『(セカンドライフの土地である)島を持っています』とか『島を持ってるんだけどなにも使ってません(笑)』という人がでてきました。それが(コンテストを共催した)Paperboy&Co.社長の家入だったのですが、それで、せっかくなんでなにかいっしょにやりましょうということになったんです。
コンテストをやろうということになったのは、そうすればセカンドライフで早くから活躍している人に会えるのではないだろうかという考えからでした。また、家入も技術とデザインの面で、セカンドライフにはすごいクリエイターがいるのではないだろうかと興味を持っていました。
私たちは投資家として新しいものを常にリサーチしているので、そういう人たちがすでに活動を始めているのであれば会ってみたいという気持ちがありました。
2社とも興味のある分野はすこしずつ違ったんですが、同じようにセカンドライフに興味を持っていたので共同でコンテストを開催したという感じですね。
1月末にアナウンスして2月14日に締め切りで発表が3月、という非常に短い期間だったのですが40件弱の応募がありました。完成度の高いものも既にあったので、これはすごいということを再認識した形ですね。」

―― たしかに締め切りまでの期間は短かったですね…(笑)
村松「通常はもう少し長いですよね(笑)」
塩田「ほかに、メディアや広告代理店の方にいろいろお話を伺って、エンドユーザーが何を望んでいるかとか、企業がそこでなにを提供できるかなど、そういったものの研究を深めてきたのが2007年でした。」

―― メタバース(バーチャルワールド)分野への出資という活動では、最初の案件でマグスルへの出資を行ったわけですが、こうした投資は現在、どういったレイヤーに対して行っているのでしょうか。
【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第7回「インベスター」第2部 GMO Venture Partners 村松竜氏 / 塩田幸子氏
村松「私たちはメタバース業界を『プレイヤー』『イネーブラー』『プラットフォーマー』の三層構造でとらえています。両端には、ユーザーであるプレイヤーと、メタバースの提供側であるプラットフォーマーがあるわけですが、私たちはその中間層、両者を繋ぐイネーブラーをメインに注目しています。マグスルさんもそこですよね。
今後、プラットフォームがいろいろ増えてくると思うのですが、その上にのるのはコミュニティですよね。(Web2.0系の代表ともいえる)SNSの次の、第三世代のコミュニティの形がメタバースコミュニティだと思っています。そうすると、単なる参入支援ではなくて、メタバースコミュニティをどう運営するかが大事になってくる。ここでイネーブラーの存在が必要になってきます。コミュニティがどのプラットフォームにあってもそれは同様です。
たくさん出てくるプラットフォームのうち、どこかが勝ち残ってすごい勢いになってくるのは間違いないと考えています。でも、プラットフォームのビジネスはかなりの投資額がかかる。我々は小規模な投資ファンドなので、そういったところを支援しても存在意義がありません。そこで、小資本でレバレッジが利くのはどこかというと中間層のイネーブラーである、と考えています。」
塩田「今後出てくるプラットフォーマーが集めたいと考えているのは参入する企業だったり、個人のユーザーだったりすると思います。プラットフォームとそうした企業やユーザーを繋げるのがイネーブラーですが、このレイヤーの方たちは極論を言えばどこのプラットフォームが成功してもいいんですよね。どのプラットフォームが成功しても、イネイブラー的な人達というのは必要になってくる。勿論、極端に一つのプラットフォームに依存しすぎればその成否に囚われてしましますが、メタバースの活用を検討する企業や個人ユーザーに対してメタバースプラットフォームの選択を提案できる立場なので柔軟に動けるのではないかと思います。」

―― 現在もメタバース(バーチャルワールド)への「参入支援」というビジネスがあります。これとは違うものになるのでしょうか。
村松「参入支援といっても広くて、実はSI企業のような業務であったり、コミュニティマネジメントまでやっているところもあります。そうした中ではコミュニティ支援のできる企業が一番良いと思っています。もちろん制作機能も必要ですが、今はコミュニティを設計・実装・運営するという、これまでのインターネットの世界とは違うものが求められていて、ここではプレイヤー交代が必ず起きると思っています。インターネットが出てきた時も、既存の広告代理店が全部やればいいという考えもあったと思うのですが、インターネットの中での広告代理業というには特殊なものがあって、結果としてニュープレイヤーが出てきました。そして、この10年でそうしたニュープレイヤーが育って、ネット広告市場4000億になったという流れがあります。同様に、メタバースでも新しいプレイヤーが登場する余地があります。」
塩田「2007年まではイベントや制作だけでしたが、今年は技術的なソリューションも含めて提案できるところが増えてくるのではないでしょうか。(メタバースを活用するための)周辺サービスも整ってきて、メタバースはさらに意義のある場所になってくるのではないかと思います。」

―― これまでに行われていたネットでのコミュニケーション手法との違いはどういった点にあるとお考えですか。
村松「いわゆるブログやSNSといった第2世代のコミュニケーションは非同期であるのに対し、メタバースでのコミュニケーションは(基本的に)リアルタイムで起きる同期的なものであるということと、アバターを介した感情移入がしやすいという、この2点が大きいです。これがあるがゆえに、これまでと全く違うコミュニケーション手法が成り立ってくると考えています。
例えば、アバターで乗物に乗ってみるとか、品物を手にしてみるとか、物事をより感覚的にインプットできることによって、これまでとはかなり違う濃度でのコミュニケーションが可能になってきたと思います。まだこれを生かしたコミュニケーション提案というのはほとんどなされていませんが、今後はどんどん考案されていくと思います。
ただ、これは単に『現実と同じ建物がありますよ』というようなことではなく、もっと本質的なものが必要です。そうすれば、人(ユーザー)はついてくると思うのですが、それがないと結果としてゴーストタウン化してしまうと思います。それはセカンドライフなどのプラットフォームの問題ではなくて、そもそもコミュニケーションデザインができているかできていないかということです。これができる企業に案件が集中して、伸びてくるのかな、と考えています。」

―― いわば、アバターを介した疑似身体性をうまくコミュニケーションに活用することが求められる、ということですね。
塩田「結局のところ、皆が大好きなコンテンツというのは『自分』なのではないかと思います。それを『アバター』という形で取り入れることは既に様々なサービスで行われてますし、そういう傾向は続くんじゃないかと思います。自分を表現するためのツールや表現の場としてのインターネットがあるという認識です。そして、それをより強化したものがメタバース(バーチャルワールド)なのではないかと思います。」

―― メタバース(バーチャルワールド)市場は今後はどういった動きになっていくでしょうか。
村松「私たちはこの分野をかなりロングスパンでみています。ファンドも(短期的に収益を狙うというよりも研究開発目的の)R&Dファンドととらえています。状況的には今後10年くらいかけてシフトが起こると見ていて、まず(ユーザーがメタバースを扱える)環境が整うのが2009年位からという見方をしています。その後もPCの買い替えが進んでいくと思いますが、(ごく一般の人も含まれる)レイトマジョリティの人が含まれるようになるのはもう少し先ですね。
そうした長いスパンで考えれば、注目を集めて急激に盛り上がり、いったん落ち着く現在のような時期は当然来ます。そこは我々は全く問題視していなくて、長いサイクルの中で予定通りのことが起きているという感覚なんです。
広告市場はセールスプロモーションも入れれば6兆円の市場がありますが、これはつまり『コミュニケーション』に払う対価です。ユーザーがほしい情報にたどり着こうとする、その活動の合計値が年間6兆円で、その数パーセントが今やっとネット分野にまわってきています。こうした動きが10年スパンで動いていくとみると、2008年はビジネス上の実験期であることに変わりはありませんが、優良な事例を積み重ね、優位性を築く期間として注目しています。
その意味で、2008年はよりビジネス的な実験にならなければいけないと思っています。単に新しい手法の提案だけではなくて、マネタイズ(収益化)を伴った実験に注目していきたいですね。」

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