2008年バーチャルワールドの展望を語る インタビュー

第2回「テレビ業界」第3部 フジテレビ 長井延裕氏 / 塚本幹夫氏

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2007年6月末、フジテレビは自局のアイドル育成番組「アイドリング!!!」でセカンドライフとの連動企画を発表、テレビ東京の「テレトロ祭り」とともに、テレビ局によるバーチャルワールド活用の先鞭をつけた。10月には国内バーチャルワールドサービス企業であるスプリュームと、「meet-me」を運営するココアの2社に出資を行うなど、セカンドライフに限らないバーチャルワールドへの取り組みが印象的だ。
フジテレビはバーチャルワールドに何を見ているのか。経営企画局経営戦略・IR室経営戦略部部長 長井延裕氏とデジタルコンテンツ局デジタル事業センターデジタルビジネス推進部部長 塚本幹夫氏の両名に取り組みの背景と展望を聞いた。

【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第2回「テレビ業界」第3部 フジテレビ 長井延裕氏 / 塚本幹夫氏
経営企画局経営戦略・IR室 経営戦略部 部長 長井延裕氏

【特集:2008年バーチャルワールドの展望を語る!】第2回「テレビ業界」第3部 フジテレビ 長井延裕氏 / 塚本幹夫氏
デジタルコンテンツ局デジタル事業センター デジタルビジネス推進部 部長 塚本幹夫氏
(文中敬称略)

―― セカンドライフを番組で利用するまでの経緯を教えてください。
塚本「当時、ちょうどデジタルハリウッドの杉山校長とお話しする機会があり、デジタルハリウッドさんもセカンドライフに取り組もうとしていた時でした。
こちらは『アイドリング!!!』というアイドル養成番組を2006年11月から始めていて、有料配信サービスの『フジテレビ On Demand』で本格的なコンテンツを載せていきたいという思いがありました。そこで、番組のプロモーションを想定してあらかじめ権利関係をクリアし、いろいろ展開ができるようにしていたんです。そこにちょうどセカンドライフの話があったので、いろいろ新しいことをやってみようと、デジタルハリウッドの三淵教授や週刊アスキーなどに協力いただきながら、セカンドライフの活用を始めました。出演者のアバターを作成して、実際に出演者に操作してもらいながらセカンドライフの中を案内したりというのを番組のネタにしたわけです。苦労した点というと、アバターを日本人に見えるようにすることですね。大変でした(笑)
早期にテレビ局が本格的に手掛けたものになると、(テレビ東京がセカンドライフ内で行っていた)『テレトロ祭り』さんが同時期にやっていましたが、うちは番組のツールという使い方でそれぞれ特色を持った試みをしていたと思います。
私たちは番組ツールとして使うことを主眼としていました。アバターの維持には費用掛からないですし、新しいキャラクターを創出するのに使うのが有効なのかな、と。例えば、『フジテレビセカンドライフショップ』では(バレーボール大会のキャラクターである)バボちゃんのバレーボールゲームなどができるのですが、これ自体は大きな規模はなくても番組の盛り上げに生かせていると思います。
まだ仮想空間で番組全体を支配するパワーはないと思うので、番組の中でネタとして、どうリアルと絡めていくかですね。
別の組み合わせ方もあります。地上デジタルテレビ放送(12セグ)が標準搭載されたPCが出てきますと、混在表示はいやだとは言っていられなくなります(※)。そうなると、むしろ積極的に、テレビのまわりにどんなコンテンツを出してテレビの視聴を高めていくかということになります。そこに、ひょっとしたらバーチャルワールドが使えるかもしれません。」
※編集部注
「混在表示」:テレビ番組とテレビ局管理下にないコンテンツを同じ画面上に表示することを指す。ワンセグ放送では混在表示はしてはいけないとされている。

―― セカンドライフを利用することで課題が見えてきましたか?
塚本「ショップは単独でやるにはお店に来られる人の数の問題があります。まずはプラットフォームとしてその段階まで上がってもらわないと、というのはありますね。また、単にモノを売るのではなく、オークションなどはリアルタイムでできないとパンクしてしまうかもしれない。現状では技術的な課題があります。
一般の動向を見てみると、今後、携帯はより手軽に、PCはより高度化していくものを求めると思うんですよね。そう考えると、現在の2Dのブラウザから3Dのバーチャル空間が求められる可能性はあるんじゃないかなと思う。」

―― 今年、日本の2つのバーチャルワールドプラットフォーム(『スプリューム』『meet-me』)に出資を行いました。これもその可能性をふまえたアクションということですね。
長井「当社の基本戦略として、自局が持つ(自社が制作する)コンテンツをベースにして収益を最大化していくという方向性があります。バーチャルワールドについても、たとえば番組宣伝での活用であったりとか、コンテンツを違う形で展開して収益化をはかるであるとか、様々な活用手段が考えられます。(セカンドライフに限らず、)そういったプラットフォームの活用は本業との親和性が高いのではないかという判断で出資しました。
常日頃、番組制作は視聴者の皆さんと対話しながらやってきたところがありますし、私達も視聴者の視点も持って見ている。こういったプラットフォームを使ってコンテンツを送り出すときには受け手側として、これでいいのか、面白いのか、といったことも常に考えています。
そういう意味ではセカンドライフの可能性を感じつつ、バーチャルワールドのプラットフォームというよりもアプリケーションという位置づけの『スプリューム』はそのアプローチが面白いですよね。また、日本人の嗜好性を考慮した『meet-me』も汎用性があると思います。こうした国産のプラットフォーム、アプリケーションの汎用性が高まってさらにグローバルスタンダードになったりするとおもしろいなあ、と思っています。非常に使い勝手がいいですし。」

―― 10年ほど前に「バーチャルお台場」という試みもあったと聞きました。バーチャルワールドへの取り組みというのは以前からあったものなのでしょうか。
長井「そういった空間で『感覚を表現できないか』というような発想は常にありました。こういう商売やっているので、もともと新し物好きっていうのもありますね(笑)
ただ、技術的な制約などで実現できてなかった部分もあります。そういう意味ではセカンドライフで起きてることに(技術的な)驚きはないんですよ。」
塚本「やはり、最終的にコンテンツが勝負であることはリアルでもバーチャルでも変わらないですが、今は見るべき中身(コンテンツ)がどこにあるのかというのがまだわかりづらい。そういうときに私たちが検索のようにコンテンツに案内する機能をどう提供していくのかという課題も見えましたし、手をつけた価値はありました。」
長井「既に思い描いていた範疇の出来事であれば、先陣を切って大きく先行投資しても、得られるものはどうなのか、つまり先行メリットがどれだけあるのかは少し疑問です。むしろ、これまでのテレビ番組、映画、イベントなどの制作経験をふまえ、通信環境を含めたコミュニケーションプラットフォームとして整ったときにそれに合わせたコンテンツを、投資に見合う収益性を見た上で出していけるという自負はあります。」
塚本「ちょっとずつはやってかないとだめですよね。」
長井「そうそう、キャッチアップはしていかないと。」

―― そういった状況をウォッチしながら、どこでアクセルを踏むか、ということですね。本格的に活用できるようになるのはいつでしょう?
長井「一概には言えないですね(笑)」
塚本「『ここに新しいものがある』ということを番組を通じて伝える役割はすでにあります。例えば、吉田 正樹(プロデューサー)という者が『これからは検索だ』と気付いて、検索サービスをテーマにした番組『井の中のカワズ君』ができた。新しい技術を取り入れて、それを番組の中でどう使えるんだと、いうようなことを考えている新しい制作マンがうちの会社にはいますので、そういう人間と話をして、『これ、どう手をつけようか』というのはあると思いますね。」
長井「同様に、例えば番組に出演したアバターが視聴者にとってのエージェント(代理人)として機能する可能性はあります。膨大な(バーチャルワールドの)情報の中からそのアバターが視聴者の代わりに情報を取捨選択し、リコメンドしてくれるというイメージです。」

―― なるほど。
塚本「ベースには2つ可能性があって、バーチャルワールドの情報を横断する検索が支配するのか、もしくはそれを凌駕する(ポータル)サイトが大きく存在するようになるのか。いろんな状況を想定して、長井の方では出資という形でプラットフォームに関与し、私の方ではコンテンツの形でいろいろなところに展開しているということですね。」
長井「状況としてはそのどっちでもいいというわけではなく、組み合わさって構成されていくと思います。」

―― 今後の展望を教えてください。
長井「こうしたエンターテイメント的なものって、完全に出来上がってなくてもいいという利点もありますよね。できあがりに完全を期さなくてもいい。実際、100%、120%の完成度にすると受け取る側もきついんですよ。だいたい8割くらいできてて、見る側が自分のイマジネーションや創意工夫で残り2割を足すぐらいがちょうどいい関係かな、と思ってるんです。そういう意味ではバーチャルワールドもガチガチにディティールを隅から隅まで作ってさあどうぞっていうよりは、多少ゆるい方がよいのでしょうね。
それに、モバイルまでを視野に入れたときに現実に限りなく近いバーチャルワールドの構築というのはやはり無理な話なんで、そこを逆手にとって思いっきりシンプルにしちゃうというのはあるのかな、と。」
塚本「例えば『アイドリング!!!』では携帯で動画を流すことを始めたんですが、どう楽しむかは視聴者の方にお任せしているんです。それも同じ考えからです。
それに、こんなにコンテンツを作っているところはテレビ局しかないと思うんです。であれば、番組をいろんなところに出していくというのはやらなければいけないことだと思っています。そういう自負はありますね。」

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