インタビュー コラム バーチャルワールド最前線

「セカンドライフは「メディア」でなく「コミュニティ」なんだ。」 KandaNewsNetwork 神田敏晶氏

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「セカンドライフは「メディア」でなく「コミュニティ」なんだ。」 KandaNewsNetwork 神田敏晶氏
●87%が2か月以上もログインしていない現状
セカンドライフの総人口は、2007年9月末日で979万人、60日以内にログインした人136万人(13%)、常時アクセスはたったの約3万人(0.3%)である。
考えてみれば登録ユーザーの87%の人が、60日以上(2ケ月以上)もログインしていないというのが現状なので、コミュニティとしては、非常に敷居の高いコミュニティといわざるをえない。
実際にログインしている人口が、全世界中をすべて合わせて3万人程度であるから、他のネットコミュニティやSNS、オンラインゲームやIRC、チャットと比較すると、広告メディアとしての価値は限りなく低い。さらに、同時に同一SIM内に参加できるアバターが50人以下と限られているため、さらに広告メディアとしての価値は下がる。
巷の各メディアで騒がれるほど、セカンドライフのメタバースは、まだまだ広告のような市場としては実際には、成立していない。まだまだ、UI(ユーザーインタフェース)などもプリミティブな状況である。しかし、なぜか企業の注目度は、異常なまでに高い。
むしろ、ビジネス的にセカンドライフのユーザー層をとらえると、ログインしてセカンドライフでの時間を潰すゆとりのある可処分時間のあるユーザーであり、常時接続回線、PCスペック、グラフィックボードのパフォーマンスなどにもハイレベルなユーザー層が見えてくる。また、多少なりとも、英語に関してもリテラシーが高い層がユーザーなのではないだろうか?
さらにセカンドライフ内では、時間の経過がおそろしく早い。
自分のアバターをいじりだすだけで軽く1時間、テレポートしてチャットをしているとあっという間に1時間。ボイスチャットでさらに1時間。自分でオブジェクトなどを作りだすと軽く3時間というのがザラな世界だ。
気がつくと半日も、セカンドライフの空間でうろついて過していたという日がある。
このような世界感でビジネスマンが企業向けの「マネタイズ」を考えられるわけがない。どちらかというと、ビジネスであくせくしながら、どうやってビジネスになるのか?を検討しながら参入してくると、何も見えてこない世界のようだ。
しかし、こうやってセカンドライフの世界にどっぷり滞在することによって見えてくるセカンドライフの世界感がある。これはきっと人類がはじめて経験する「ユーザー醸成型の仮想空間」であった。
●セカンドライフは「経験の再生」
セカンドライフの中での出来事は、実際の社会でおこなわれてきた経験をもとに、それを再生しているかのようだ。そう「経験の再生」なのである。クラブで朝まで踊り続けること、婦女子をナンパすること、海外で知らない人とカフェで友達になる。今まで、そのような経験をするのにいくらの費用と時間がかかっていたか?
セカンドライフの中での「経験の再生」にかかるコストは限りなく無料に近い。時間はかかるが…。しかもほとんどのアバターたちはポジティブで社交的でノリがよい。
また、逆にセカンドライフで経験してからリアルでも経験するという現象も、今後は、ありえることだろう。それは「経験の発生」と考えたほうがいいのかもしれない。
メタバースの世界では、人類の創造性と技術に合わせて成長が継続する。ビジネスですぐに儲けるということよりも、アバターたちのニーズや欲求を満たすようなサービスが最初のビジネスになるのではないだろうか?
また、それはビジネスの場としてではなく、遊び、過ごすための空間から生まれ、ビジネスユーザーが増えれば増えるほど、つまらない空間が増えているのも現状だ。それは完成されたメディアではなく、社会の縮図としてのコミュニティだからだ。
●インターネットの黎明期の再来
思い返せば、10年前のウェブサイトも、多々ある個人ホームページのユニークな活動が魅力的であり、そんな市場にビジネスサイトが参入していった経緯がある。
しかし、最初の評価は、インターネットの「広告としての価値は低い」だった。
今では誰も、そんなことを発言する人はいない。
ダイヤルアップでネットにアクセスしている時と、今の常時アクセスとでは、ネットの使い方もちがう。携帯もパケ放題になることによって、使い方が大きく変化した。
セカンドライフでは、そのアクセスする敷居が恐ろしく高いだけなのかもしれない。今のセカンドライフの「ビジネスバブル」は異常だと思いますが、それなりに新たな経験を企業にももたらせはじめている。
セカンドライフは、まだまだプリミティブな領域だが、3Dという仮想空間の表現手法だけではなく、新たな「仮想世界の感覚」というメタバース独特の感覚も感じさせてくれている。
当然、セカンドライフだけでなく、WiiやGoogleなどもメタバース業界に参入してくることだろう。そうやってメタバースの選択機会が増えることによって、技術的な敷居も低くなるだろう。そこからが本当のビジネスが見えてくるのではないだろうか?
ちょうど、いまは、ウェブ1.0時代の「ビジネスモデル特許」に狂騒していたころに酷似している。儲かったのは、弁理士さんだけみたいな(笑)。乗り遅れると大変なことになるという煽動に日本の企業は過敏になりすぎだ。
ボクが体験しているセカンドライフの一番のだいごみは、仮想空間の体験も、いつしか自分の実経験のように感じはじめてきていることだ。
●2台のマシンでセカンドライフをしながら仕事する理由
こうやってメールや原稿を打ちながらも、となりのセカンドライフ用マシンでは、セカンドライフ内の契約しているホテルのプライベートビーチで、ボサノバを聞きながら、きれいな美女にマッサージしてもらいながら、日光浴をしている。
1台のマシンでセカンドライフをやるのではなく、セカンドライフ用のマシンを隣に設置することによって、リアルとバーチャルの二重の時間を堪能できるのだ。
これだけ暑い日本の部屋で仕事しながらも、電脳社会ではリラックスできるという変な感覚を体験している。今までのネットでは得られなかった新しい感覚だ。今年は一度も海に行けなかったが、何度も南国に旅行している気分である。
旅行会社には申し訳ないが…。
PCが2台あるだけで、リアルなネットとバーチャルなネットに、心と体を分岐させて同時に存在することができるのだ。
●セカンドライフのデフレ社会で暮らす
また、リアルな現金をリンデンドルに変えることによって、「世界で一番物価と人件費の安い仮想世界」でも生活ができるようになる。
ボクのボイスチャットのフランス語の家庭教師は、10リンデン(日本円で5円くらい)で1時間もフランス語会話につきあってくれる。
まもなく、1000万人時代を迎えるセカンドライフの世界では、大半の人がお金をもっていない。だから、10リンデンでも、セカンドライフの世界では200倍くらい(1000円)の価値を持っていることになる。
だから、1万円を20000リンデンドルに変えるだけで、200万円くらいお小遣いがある
ような計算となる。200万円お小遣いがあれば、あなたはリアルの世界でどうすごすだろうか?
セカンドライフの楽しむひとつに、やはりお小遣いをたくさん持って遊んでみることだ。
かつてのホリエモンではないが、親しくなった人にチップをあげるだけで、ズラズラと自分の後ろにアバターがくっついてくるようなこともあった。まるでインドのスラムの子供と感覚は同等だ。
金のかからないセカンドライフではあるが、そこに金を投じることによって、金の使い道が見えてくる。
セカンドライフにログインしている間は、別に衣食住に困るわけではないが、人間らしく生きたくなる。ハンサムにもなれるし、性転換もできるし、リアルでは不可能なことも可能です。しかし、大半の人は、自分より少しだけかっこよく美化した程度でおさまるのもユニークな現象である(笑)
ちょっとりりしくなったアバターでいろんな旅をして、経験することによって、いろんなことを学習し、経験することができる。
また。今までの経済では、ちょっと考えられないようなデフレが進んでいる。
経済でいうところのデフレというよりも、ボランタリー感覚に近いところでの、「投げ銭」によるアバター同士のコミュニケーションのようだ。
文字や写真ではなく、そこにログインしている「人物」と、気軽にしゃべることができる。その場所そのものが、コンテクスト的な文脈つながりであり、そこに時間を同期して、存在することによって、ある程度の興味を共有できるアバター同士という関係性が成立する。
●セカンドライフは多対多のコンテンツ共有コミュニティ
これは、いままでのウェブサイトやコミュニティ、のような「一対多」や、SNSとはちがった、地縁や知人の関係性ではなく、「多対多のコンテンツ共有」の世界があると考えている。
サービスに参入するだけでなく、携帯型のデバイスや、行動録画装置や、情報フィルタリングや、自分のアバターによる情報収集や、RSSリーダー機能など…
いろんな周辺サービスが考えられそうだ。
ここでは、誰もが自由に他人に声をかけることが許され、シカトも自由だし、対応してもいいし、いろんな体験が、自分の部屋の中から世界中に、繰り広げられる。少し残念なのは、今までのネットと同じように、「日本語化による言語による鎖国」が生じていることだ。時差も場所も越えられたのに、言語の壁による障壁が一番大きい。メタバースの世界でも、日本は、ガラパゴス的な独自の進化をとげそうだ(笑)。
現在、企業がセカンドライフに参入するときに、どんな建物を立てるのか?ということばかりに注意が向いているが、初期のネットと一緒で、ウェブのトップデザインばかりに頭がいってしまっていることと同じ問題を抱えている。
建物って一度いけば納得して終了だ。そこにリピーターで来るためには、何よりも人、いやアバターのホスピタリティなどの対応が必要だ。そのホスピタリティもビジネスではなく、存在することが楽しい空間になる必要がある。
仮想空間で生活するゆとりのある企業が、これからのメタバースビジネスで何が起きるのかを体感できることだろう。そう考えると、明日のメシのタネにすぐにしたい企業では、セカンドライフは、なかなか難しいコミュニティだ。
●セカンドライフへ企業が参入する意味
むしろ、ネット可処分時間のある個人たちが、ユニークなものを企画し、創造し、それを企業がサポートし、潜在する顧客を集め、自らの顧客も誘引し、コミュニティ化していくことのほうが、仮想空間のコミュニティとしては意味がある。
従来の広告効果として換算させるよりも、企業の仮想島の住人として、一緒に暮らしていくという感覚が必要だろう。企業のブランドコミュニティや製品コミュニティなど、ユーザー同士が好きな製品やサービスについていろんな働きかけをおこない、新たな製品のユニークな情報交換などができ、それをオブジェクトやアバター自身で「可視化」することができるというベネフィットを持っている。
企業が建物建築ではなく、製品やサービスについていろいろとユーザーの声や、使い方のアイデアやハックをフィードバックしてもらうなどの、いろんなコミュニケーションが本当は可能なのではないだろうか?
そう、本当のセカンドライフへ企業が参入するということは、ユーザーと仮想空間を経由して生活を共にするというシミュレーションができることにつきるのだ。このことを理解している企業が少なすぎるのが残念でならない。
参入しただけで、プレスリリースをマスメディアとりあげてもらえるというロジックはすでに破綻している。
セカンドライフなどのメタバースの魅力を煽るわけではないが、メディアの過剰反応ぶりは、持ち上げるだけ持ち上げて、反対に今度は、手のひらをひるがえして、不必要な情報で卑下してくるような状態だ。
セカンドライフもデビューからすでに8年も経て、ようやく、昨年から急増し変化した世界だ。ボクも昨年の登録してから、ようやく一年を経て、「満一歳」となって、ようやくなんとなくメタバースの過ごし方が見えてきたような気がする。
メタバースの創世記の時代をゆっくり、たのしみながら、ネット可処分時間をもっと楽しく、便利で、有意義なものに変えていくには、まだもう少し時間がかかるのかもしれない。
【筆者略歴】
KandaNewsNetwork,Inc. 代表取締役 ビデオジャーナリスト
神田敏晶(かんだ としあき)
神戸市生まれ。ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経てコンピュータ雑誌の企画編集 とDTPに携わる。その後、 CD-ROMの制作・販売などを経て1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」を運営開始。
現在、impress.TVキャスター、早稲田大学非常勤講師、デジタルハリウッド特別講師。2002年4月1日より日本で法人化。世界で初めての” SNS”をテーマにしたIT-BARを渋谷で展開し、現在は世界で初めてのビデオ投稿スタジオを併設したBAR 「BarTube」を展開、毎週木曜日には「セカンドライフナイト」も開催中。2007年参議院議員選挙東京選挙区無所属で出馬し11200票で落選!
著書は「Web2.0でビジネスが変わる」、「YouTube革命 テレビ業界を震撼させる「動画共有」ビジネスのゆくえ」(どちらもソフトバンククリエイティブ)、「ウェブ3.0型社会 リアルとネット、歩み寄る時代」(大和書房)。

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